"3年墓参りした義父が、古い家の壁の奥で呼んでいる" 第8話
「見覚えはありますか?」
「ありません……! こんな類、いたことも、見たこともありません!」
「そうですね。跡を見てください」
言われて、目を凝らした。 『直』の最のはらい。 『子』の縦線の引き方。 肩がりの、妙に角ばった圧のい癖。
「……浩司さんの字です」
喉の奥から、乾いた声が漏れた。
、夫の字を見違えるはずがない。 契約類の記入を嫌がり、いつも私に代させていたくせに、この所だけは、夫自ので私の名が偽造されていた。
「〇の暮れ、正雄さんが血相を変えてこの事務所にび込んできたんです」
清先が、静かに語り始めた。
「正雄さんはの棟梁を引退したあと、浩司さんの会社の相談役という形で名義だけ残していました。ある、事務所のデスクで偶然、この契約の控えを見つけてしまったそうです」
私の名が無断で使われ、千万円もの連帯保証に仕てげられていることを。
「正雄さんは激していました。『直子さんは何もらない。あの子にこんな荷を背負わせてたまるか』と。私に相談したで、この融関に乗り込んで跡鑑定を突きつけ、告発すると息巻いていた」
「お義父さんが……私のために……?」
「ええ。正雄さんは浩司さんを呼びし、問い詰めるつもりだと言っていました。自首させるか、あるいは自分が肩代わりしてでも契約をに戻させると」
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清先の拳が、机のでギリリと音をてて握りしめられた。
「ですが……その話しいの直です。正雄さんが自宅の居で突然倒れたのは」
血が逆流するような衝撃が、を殴りつけた。
「倒れた……? 脳梗塞で……?」
「ええ。救急搬送され、命は取り留めたものの、言葉がなくなった。そしてその数週、私が病院へ見いにこうとしたには、すでに浩司さんと子さんによって『方の施設へ転院した』と続きが取られ、私ですら面会を拒絶されたのです」
点と点が、残酷な本の線となって繋がっていく。
なぜ、義父はざけられたのか。 なぜ、義母は私を病に歩も入れなかったのか。
脳梗塞で倒れ、半の自由と言葉を奪われた義父。 しかし、認能力は完全に失われていなかった。 もし義父のリハビリがみ、再び言葉を取り戻したら? もし義父が、私に真実を話してしまったら?
夫の偽造作はのに晒され、刑事告訴され、会社は倒産し、夫は破滅する。
だから――。
夫と義母は、義父を「んだ」ことにしたのだ。
誰の目も届かない、母の裏のれに押し込め、側から鎖を巻き、鍵をかけ。 私をから追いし、度と義父と接触できないように環境をえて。
義父が私を助けようとしたから。 私を守るために夫にち向かおうとしたから。
そのせいで、義父はもの、すら届かない排泄物の悪臭ので、き埋めにされていたのだ。
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「う……あ……っ」
耐えきれず、両で顔を覆った。 涙が、指の隙からとめどなく溢れた。
「私のせい……私のせいで、お義父さんは……!」
「違います、直子さん」
清先の厳しい、だが慈に満ちた声が遮った。
「あなたのせいではない。すべては、自らの保と虚栄のために、実の父親の命と、妻のを踏みにじった浩司さんと子さんの犯罪です」
先は鏡をし、疲れたように眉を揉んだ。
「この契約だけではありません。正雄さんが倒れたあと、この千万円の融資は焦げ付き始めています。すでに融関からは督促状が届いているはずですが、おそらく浩司さんが実で握りつぶしていたのでしょう」
「……この借は、私が払わなければいけないんですか?」
震える声で尋ねた。 千万。 パートで働き、慎ましく暮らしてきた私に、かかっても返せる額ではない。
「本の署名も押印もなく、無断で偽造された連帯保証契約は、法律無効です。毅然と無効を主張し、債務確認の訴訟を起こせば、あなたが支払う義務はありません」
清先はきっぱりと言い切った。 その言葉に、胸のつかえがほんのわずかだけ軽くなった。 だが、先の表は、依然として険しいままだった。
「問題は、それだけではないということです」
「……え?」
清先は、元の面談記録をめくりながら、声を極限までく落とした。