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"3年墓参りした義父が、古い家の壁の奥で呼んでいる" 第6話

階段を駆けがり、アパートの鍵穴に鍵を差し込もうとした瞬だった。

ガチャリ、と内側からドアがいた。

息が止まった。

玄関のがり框にっていたのは、目のに隈を濃く浮かべ、髪を振り乱した夫の浩司だった。 酒と煙と、焦燥の匂いが廊にち込めている。

「……浩司さん」

「遅かったじゃねえか」

夫の声は、濁りきっていた。 靴を脱ぐもなく、夫は私の腕を掴んで部のへと引に引きずり込んだ。

「痛っ……! して!」

「おい、直子。荷物、全部そこにせ」

夫は私の抵抗などに介さず、肩にかけていたバッグを力づくで奪い取った。 ファスナーを乱暴に引き裂くようにけ、をフローリングのにぶちまける。

財布、鍵、化粧ポーチ、帳。 のに散乱する常の具を、夫は獣のような目で漁り始めた。

「印鑑登録カードと、マイナンバーカード。どこにある」

く、狂気を孕んだ声だった。

「何を探してるの? 勝なことしないで!」

「実印だよ!! 実印と権利、それに通帳だ! どこに隠した!!」

夫が鳴り声をげ、私の帳を真っつに引き裂いた。 吹のようにい落ちる破片の向こうで、夫の充血した目がギラギラとっている。

「母さんが言ってたぞ。実の解体現でおが騒ぎてたせいで、警察汰になったってな! 現に弁護士を呼ぶ準備までしてただろうが!」

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「お義父さんをあんな目にあわせておいて、まだそんなこと言ってるの!?」

「親父のことはいいんだよ! あれは病気なんだから仕方ねえだろ!」

平然と、吐き捨てるように言った。 悪びれる様子など、微もない。

「問題はだ! の窓で親父の座が差し押さえられそうになってんだよ! このままだと会社の渡りがる! 頼むからせ、直子。おの印鑑証があれば、まだ繋ぎの融資が引けるんだ!」

喉の奥が、カラカラに乾いていく。

繋ぎの融資? おの印鑑証?

義父の言葉が、稲妻のように脳裏を貫いた。 『直子さんの名が、使われた』

「……浩司さん。あなた、私の名で何を借りたの?」

部の空気が、ピシリと凍りついた。

夫の漁るが、ピタリと止まる。 つんいになったまま、夫はゆっくりと顔をげた。 その瞳に、瞬だけ浮かんだ揺。 けれどすぐに、いつもの傲で馬鹿にした笑みに塗りつぶされた。

「……何言ってんだ、お」

「お義父さんが言ったわ。集治療で、識が戻った。私の名を、あなたが使ったって」

夫の喉仏が、ゴクリとした。 や汗が、夫のこめかみを伝って顎から滴り落ちる。

「……寝ぼけてんだよ、あのジジイは。脳梗塞でがおかしくなってんだ。誰のおかげで今まで飯がえてたとってんだよ。全部妄だ」

「じゃあ、なんで私の実印がいるの? なんで今、私の印鑑証が必なのよ!」

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「おは黙って俺の言う通りにしてりゃいいんだよ!!」

夫がを蹴ってちがり、私の胸ぐらを掴んだ。 息が詰まるほどの圧力。 先に吹きかかる、荒い息。

「いいか、直子。俺の会社が潰れたら、おもに迷うんだぞ。、誰にわせてもらってきた? 誰の庇護のできてこられた? 子ども産めない役たずのおを、誰が妻として置いてやってるとってんだ!」

胸の奥を、何本ものたい針で突き刺されたような痛みがる。

、この呪縛に縛られてきた。 自分が至らないから。 子どもを産んであげられなかったから。 夫を支え、義母の嫌に耐え、をすするようにして庭を守ることが、私の唯の贖罪だとい込まされてきた。

けれど。

義父の、骨ばかりになったあの腕。 暗の檻ので、も私の名を呼び続けていたあの姿をいした瞬――。

私のにあった「従順な妻」は、完全にんだ。

「……触らないで」

く、押し殺した声がた。

「あ?」

「汚いで、私に触らないで!!」

事の馬鹿力だった。 両で夫の胸板を力任せに突きばした。

を突かれた夫は、背のガラステーブルに腰を打し、けない鳴をあげてに倒れ込んだ。

散乱した荷物のから、スマートフォンと財布だけを瞬にひったくる。 振り返ることなく、玄関のドアノブを回した。

「待て! 直子! 逃げんな! ぶっ殺すぞ!!」

背から響く夫の号と、何かが壁に激突して砕け散る音。

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