"3年墓参りした義父が、古い家の壁の奥で呼んでいる" 第2話
引き戸が、乱暴に押しけられる。
その瞬――。
腔を直撃したのは、烈な腐臭だった。
っぽいラベンダーの芳剤の匂いと、何も堆積した排泄物の饐えた臭気。 息を吸い込むことすら拒絶したくなるような、濃なの気配。
遮カーテンの代わりに打ち付けられたベニヤ板の隙から、細い埃混じりのが筋となって差し込んでいた。
部の隅。 万の、汚れて元のが分からない煎餅布団のに、何かが転がっていた。
の形をしていた。 しかし、肉などどこにもついていなかった。 の皮膚が骨に直接張り付き、伸び切った髪が顔半分を覆っている。
「……う、あ……」
その骨ばかりの腕が、差し込むに向かって、宙を掻くように伸びた。
「お義父さん……ッ!」
靴のまま、踏み荒らされた畳のにび込んでいた。 異臭も、元に散らばる用オムツの残骸も、何も目に入らなかった。
たく乾ききった、枯れ枝のようなを両で握りしめる。
「お義父さん、直子です! 私です! わかる!?」
落ち窪んだ窩の奥で、濁った瞳が微かに揺れた。 線が、私を捉えた。
「……な、おこ……さん……本当、に……直子さん、か……」
ひび割れた唇から、微かな空気が漏れる。
「きてた……どうして……私、もお墓参りを……!」
涙で目のが歪んで、何も見えなくなった。
。 のも、のも、あのたいに向かってをわせていた。
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「お義父さん、浩司さんと仲良くやれなくてごめんなさい」って、泣きながら報告していた。
そのすぐ数メートル先で。 このは、この真っ暗なの届かない部で、ずっと息を潜めていたのだ。
くから、けたたましいサイレンの音がづいてくる。
「救急隊が来ました! かさないでください!」
救急隊員たちが崩れ込んできて、私は引き剥がされるように部のへ押しされた。
ストレッチャーに乗せられた義父の体は、の男とはえないほど軽そうだった。 搬送用のシーツ越しに浮きる骨の輪郭が、痛々しくて直できない。
隊員が叫びっている。 「度の脱、極度の栄養状態! 自発呼吸微! 直ちに搬送します!」
庭が、異様な気とパニックに包まれる。 パトカーからりてきた警察官が、険しい顔で松本さんから事を聞き始めていた。
私のポケットので、スマートフォンがけたたましく震えした。
画面を見る。 『夫・浩司』の文字。
通話ボタンを押す指が、りでガタガタと震えていた。
「もしもし、直子!? お、今どこにいるんだよ!」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、焦りと苛ちの混ざった夫の鳴り声だった。
「実だろ!? なんで現にいるんだよ! 解体から連絡が来たんだ。れの壁をけたらがいたって……!」
夫はそこで言葉を詰まらせた。
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「冗談じゃねえ……れは曜までをつけるなって、あれほど言っておいたのに……!」
「曜……?」
「いや、何でもない! お、余計なことをしてないだろうな!」
になって分かったことだが、浩司はれを取り壊すに、義父を別の所へ移すつもりだった。事が始まるまで、まだ数の猶予があるとい込んでいたのだ。
しかし、現責任者が受け取っていた程表では、れの壁撤は今になっていた。浩司の惑とは関係なく、は予定された作業をめていた。
息が詰まりそうだった。
息が詰まりそうだった。
この男は、父親の命のことなど言も聞いてこない。 ただ、何かがバレたのではないかと怯えている。
「浩司さん」
自分の声が、驚くほどくたく響いた。
「お義父さんが、見つかったわよ」
話の向こうが、完全に凍りついた。 呼吸の音すら消えた。
「……は?」
「お義父さんが、れにいたの。きてたのよ」
「……な、何を言って……親父は、にお、病院で……」
「嘘をつかないで!!」
喉が裂けるかとうほどの声がた。 所の民たちが、巻きに驚いた顔でこちらを見ている。 世体なんて、どうでもよかった。
「お義父さんは今、救急で運ばれるところよ! あなた、警察に全部説しなさい!」
「待て! 直子、待てって! 勝なことすんな! おい!!」
通話を方に切り、私は救急へ駆け寄った。
救急隊員に同乗を懇願し、乗り込む。 内は々しい消毒液の匂いと、バイタル測定器の子音が鳴り響いていた。