"3年墓参りした義父が、古い家の壁の奥で呼んでいる" 第1話
解体業者のが、属の軋む鳴をあげて止まった。
「おい、待て! エンジン止めろ!」
現責任者の松本さんの鳴り声が、埃のう庭に響いた。
ショベルカーのい唸りが途切れる。 急に訪れた静寂ので、のぬるいが私の頬を撫でた。
。 私はこの庭の片隅にある、さなのでをわせ続けてきた。
夫と義母が「ここに正雄さんの魂が眠っているから」と置いた、黒ずんだ墓標代わりの庭。 今も、最のお別れにと買ってきた菊の束を抱えていた。
昭の終わりに建てられた夫の実。あちこちのが抜けかけ、義母が「もう維持できない」とごと売却を決めたのだ。
引き渡しの条件は、母の裏に張り付くように増築された、あの異様な「れ」を更にすることだった。
解体事は今週から始まる予定だった。ただ、夫の浩司からは「れの取り壊しは曜になる」と聞かされていた。
ところが昨夜、業者から程変更の連絡が入ったという。母の作業に先ち、の通りを確保するため、れの壁と周囲の増築部分を先に撤することになったのだ。
義母は「浩司には私から伝えておくから」と言い、私には今、最の墓参りを済ませるよう勧めた。
夫と義母が、その変更をどれほどなことだと受け止めていたのか。
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当の私はる由もなかった。
「佐藤さん、ちょっとそこ、どいててください!」
松本さんがヘルメットの鍔を押しげ、青ざめた顔で母の裏へりに向かう。
「松本さん? どうかしたんですか」
束を抱えたまま、私は無識にあとを追っていた。 元の砂利がジャリッと音をてる。
「……気のせいじゃねえよな」
作業員のが、にしたバールを握り直して息を呑んでいた。
「誰か、にいるぞ」
を疑った。 いるはずがない。
このれは、義父が倒れたからずっと「かずの」だった。 が腐って底が抜けているから危ない、絶対にづくな。 夫の浩司からも、義母の子さんからも、そうきつく言いつけられていた。
私が母をてくのアパートにでまわされるようになったのも、義父が「くなった」直だった。 義母の介護の負担を減らすため、おがいると母さんが気を使うから、と夫に言われて。
「……カン、カン」
乾いた、何かがを叩く音。
いや、違う。 骨の浮きたの甲が、内側からい壁板を々しく擦っているような音だ。
臓が、喉の奥までねがった。
の音すら消え失せた庭で、全員が息を止めていた。
壁の向こう。 暗の底のような所から、掠れた、湿った空気が漏れるような声がした。
「……なお、こ……さん」
背筋に、氷を流し込まれたような悪寒がった。
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え? 待って。 今、何て言った?
「……直子さん……そこに、いるのか……」
聞き違いのわけがない。
、私がこのに嫁いできたから、いつも優しく私を呼んでくれた声。 妊を責める義母から私を庇い、縁側で「すまないね」といお茶を淹れてくれた声。
、くの療養所で誰にも取られずに息を引き取ったと、夫から告げられた。
義父――佐藤正雄の声だった。
「お義父さん……?」
抱えていた菊の束が、音もなく元に落ちた。 指先が震えて、覚が消えていく。
「お義父さんなの!? そこにいるの!?」
「おい佐藤さん、危ない!」
制止する松本さんの腕を振りほどき、私はれのトタン壁に取りすがった。 埃まみれの羽目板にを押し当てる。
壁の奥から、ヒュー、ヒューと喉を鳴らすような荒い呼吸が聞こえる。
「……たす……け……て……」
「松本さん! 鍵! ここに誰かがいます! く壊してください!」
私の絶叫に、職たちの顔が変わった。 プロの現だ。の命がかかっていると察した松本さんのきは速かった。
「110番と119番、両方回せ! く! おい、バール持ってこい! 扉をこじけるぞ!」
れの入りは、側から太い鎖がに巻かれ、きな京錠で固く閉ざされていた。 京錠の表面には、ので赤茶の錆がこびりついている。
をに入れておくための部じゃない。 へさないために、完全に封鎖された檻だった。
バールが属の輪にい込み、ギィ、と障りな鳴をあげる。 ボルトが弾けぶ乾いた音が、静かな宅に響き渡った。