"妻が胸に縫い込んだ謎の数式" 第4話
問題は、その歪みがどのような形として現れるかだ。
式を変形し、ある $x$ に対する $y$ の値を求める形に持ち込みたい。
$$(x^2 + y^2 - 1)^3 = x^2 y^3$$
両辺の方根を取る。実数の範囲で考えれば、
$$x^2 + y^2 - 1 = x^{2/3} y$$
あるいは移して理すると、
$$y^2 - (x^{2/3}) y + (x^2 - 1) = 0$$
「……なるほど、$y$ に関する次方程式か!」
わず膝を打った。
展すると次という恐ろしい項式に見えたものが、両辺の方根を取るというワンステップを挟むだけで、数学で誰もが解き方を叩き込まれる、$y$ についてのただの次方程式へと鮮やかに姿を変えたのだ。
判別式と解の公式がのを駆け巡る。
変数 $y$ に対する次方程式:
$$y^2 - A y + B = 0$$
ここで、$A = x^{2/3}$、$B = x^2 - 1$ だ。
解の公式を適用する。
$$y = \frac{x^{2/3} \pm \sqrt{(x^{2/3})^2 - 4(x^2 - 1)}}{2} = \frac{x^{2/3} \pm \sqrt{x^{4/3} - 4x^2 + 4}}{2}$$
鉛を持つが、らずらずのうちにを帯びていた。
根号の、判別式 $D(x) = x^{4/3} - 4x^2 + 4$ が実数解を持つ条件、すなわち $D(x) \ge 0$ となる $x$ の範囲が領域、定義域となる。
「まず、まかな領域を絞り込もう」
$x$ が非常にきいとき、$-4x^2$ の項が支配になり、根号のは急速に負になる。つまり、この曲線は無限の彼方へ伸びていくようないた曲線ではなく、ある閉じた限の領域のなかに閉じ込められた閉曲線だ。
$x = 0$ のとき:
$$D(0) = 4 > 0$$
解は $y = \frac{0 \pm \sqrt{4}}{2} = \pm 1$。先ほど求めた切片と完全に致する。性は取れている。
$x = 1$ のとき:
$$D(1) = 1^{4/3} - 4(1) + 4 = 1 - 4 + 4 = 1 > 0$$
解は、
$$y = \frac{1 \pm \sqrt{1}}{2} = \frac{1 \pm 1}{2}$$
すなわち、$y = 1$ または $y = 0$。
「おや……?」
私はを止めた。
$x = 1$ のとき、$y = 0$ だけでなく、$y = 1$ という解がする?
単位円ならば $x = 1$ のときの $y$ は $0$ しかないはずだ。
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しかしこの曲線は、$(1, 0)$ を通ると同に、方に持ちがって $(1, 1)$ という点も通過するということか。
私の拍数が、確実にがっていくのが分かった。
さらに側を調べてみる。$x$ はどこまできくなれるのか。
境界となる $D(x) = 0$ の点を探る。
$$x^{4/3} - 4x^2 + 4 = 0$$
ここで $t = x^{2/3}$ と置換してみる。$x \ge 0$ だから $t \ge 0$。
すると、$x^2 = (x^{2/3})^3 = t^3$ となる。
方程式は、
$$t^2 - 4t^3 + 4 = 0 \implies 4t^3 - t^2 - 4 = 0$$
次方程式だ。
暗算で体の見当をつける。
$t = 1$ のとき、$4(1) - 1 - 4 = -1 < 0$。
$t = 1.2$ のとき、$4(1.728) - 1.44 - 4 = 6.912 - 5.44 = 1.472 > 0$。
つまり、$1 < t < 1.2$ のに実数解がひとつだけする。
線形補で似値を求めると、$t \approx 1.13$ あたりか。
$t = x^{2/3} \approx 1.13$ ならば、$x \approx (1.13)^{3/2} \approx 1.2$。
「最幅は、$x \approx 1.14$ から $1.2$ 付……! 単位円の側へと膨らみしているのか」
定規の目盛りを見つめながら、私は方の横軸にく補助線を引いた。曲線は $x = 1$ を越えて、わずかに側へと張りしている。
では、各点における具体な $y$ の値をプロットしていこう。計算の醍醐は、ここからだ。数値が具体な点の連なりとなり、のに命を宿していくプロセス。
私は用の余に計算用のマトリクスを作り、いくつかの主な $x$ の値について、計算で平方根と方根の似値を弾きしていった。
まず、$x = 0.2$。
$$x^{2/3} = (0.2)^{2/3} \approx 0.342$$
$$x^{4/3} = (0.342)^2 \approx 0.117$$
$$x^2 = 0.04$$
$$D(0.2) = 0.117 - 4(0.04) + 4 = 0.117 - 0.16 + 4 = 3.957$$
$$\sqrt{D} \approx 1.989$$
したがって、つの解は、
$$y_1 = \frac{0.342 + 1.989}{2} = \frac{2.331}{2} \approx 1.165$$
$$y_2 = \frac{0.342 - 1.989}{2} = \frac{-1.647}{2} \approx -0.824$$
方に鉛の先を落とす。
$(0.2, 1.165)$ にさな点を打ち、$(0.2, -0.824)$ にもうひとつの点を打つ。
「が……がっている……?」
$x = 0$ のときの側の値は $y = 1.0$ だった。
それが、$x = 0.2$ にむと、$y = 1.165$ へとせりがっている。
からしれたところで、端のラインが盛りがっているのだ。
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次、$x = 0.5$。
$$x^{2/3} = (0.5)^{2/3} \approx 0.630$$
$$x^{4/3} \approx 0.397$$
$$x^2 = 0.25$$
$$D(0.5) = 0.397 - 4(0.25) + 4 = 0.397 - 1.0 + 4 = 3.397$$
$$\sqrt{3.397} \approx 1.843$$
つの解は、
$$y_1 = \frac{0.630 + 1.843}{2} = \frac{2.473}{2} \approx 1.236$$
$$y_2 = \frac{0.630 - 1.843}{2} = \frac{-1.213}{2} \approx -0.606$$
$(0.5, 1.236)$ と $(0.5, -0.606)$ に点を打つ。
側はさらにくなり、$1.2$ を超えた。
方で、側のラインは $-0.824$ から $-0.606$ へと持ちがってきている。側は原点に向かって切れがるように昇しているのだ。
次、$x = 0.8$。
計算用が黒鉛のでわずかに汚れ、私の指先も黒く染まり始めていた。けれど、机のの気スタンドのかりに照らされた面から、目をすことができない。息を殺すようにして、計算をめる。
$$x^{2/3} = (0.8)^{2/3} \approx 0.862$$
$$x^{4/3} \approx 0.743$$
$$x^2 = 0.64$$
$$D(0.8) = 0.743 - 4(0.64) + 4 = 0.743 - 2.56 + 4 = 2.183$$
$$\sqrt{2.183} \approx 1.477$$
$$y_1 = \frac{0.862 + 1.477}{2} = \frac{2.339}{2} \approx 1.170$$
$$y_2 = \frac{0.862 - 1.477}{2} = \frac{-0.615}{2} \approx -0.308$$
$(0.8, 1.170)$ と $(0.8, -0.308)$ に点を打つ。
側は $x = 0.5$ をピークにして、今度は緩やかにがり始めている。
側は $-0.308$ まで浅くなっている。
そして、$x = 1.0$ の点。
先ほど計算した通り、$(1.0, 1.0)$ と $(1.0, 0)$。
さらに、曲線の端の限界点。
先ほどの次方程式の解、$t \approx 1.138$、すなわち $x \approx 1.139$ のとき。
このとき根号のはゼロになるから、つの解は解となる。
$$y = \frac{x^{2/3} \pm 0}{2} = \frac{t}{2} \approx \frac{1.138}{2} \approx 0.569$$
つまり、端の折り返し点は $(1.14, 0.57)$ 付だ。
私は度、鉛を置いた。
の親指と差し指が、い圧のせいでく凹んでいた。首を軽く回し、凝り固まった首を伸ばす。
方のには、半平面に打たれた数個の黒い点がしていた。
私は息を潜めながら、$y$ 軸に関する対称性を利用して、これらの点を半平面、すなわち負の $x$ の領域へと対称に転写していった。
$(-0.2, 1.165)$、そして $(-0.2, -0.824)$。
$(-0.5, 1.236)$、そして $(-0.5, -0.606)$。
$(-0.8, 1.170)$、そして $(-0.8, -0.308)$。
$(-1.0, 1.0)$、そして $(-1.0, 0)$。
端の折り返し点 $(-1.14, 0.57)$。
すべての点が、方の格子のに静かに配置された。
点と点を見つめる。
私ののなかで、それらが結ばれるべき滑らかな曲線のが、すでに輪郭を持ってち現れ始めていた。