"七年越しに再婚する私✕見知らぬ子と失踪夫" 第12話
医師はカルテを静かに閉じ、理さんの目をまっすぐに見つめた。
「悠斗くんのお母様、どうか絶望しないでください。結さんに頼らなくとも、本骨髄バンク、ならびにさい帯血バンクにおいて、すでに悠斗くんと適するフルマッチのドナー候補が複数見つかっています。血縁者に無理な負担をいることなく、より全で確実な治療法へめる段階に入っています」
「あ……」
理さんの目から、堰を切ったように涙があふれた。
「よかった……悠斗、助かるがあるんですね……」
「ええ。最初から、そうするべきだったのです」
医師が力く頷いた。
その瞬だった。
控えので待させられていたはずの浩が、警備員の制止を振り切るようにしてドアを乱暴にけた。
「おい! 結果はどうだったんだ!」
浩は息を切らし、脂汗の浮いた顔で部に踏み込んできた。
「適したんだろ!? いつ入院できるんだ! 今すぐ程を決めろ!」
部にいた全員のたい線が、斉に男に注がれた。
主治医が静かにちがり、を交えない平坦な声で告げた。
「浩さん。先ほどお母様にもお伝えしましたが、結さんはドナー適です。移植はいません」
「……は?」
浩のきが、ピタリと止まった。
抜けにをけたまま、医師の顔と、私の顔、そして結の顔を交互に見つめる。
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「適……? そんなわけないだろ! 俺の血を引いてるんだぞ! 半分は同じなんだから、し無理をすれば使えるはずだ!」
「は部品ではありません」
医師の声が、初めてたく鋭くなった。
「これ以の医学根拠のない主張はおやめください」
その言葉が、最の引きだった。
浩の顔から、血の気が引いていくのと同に、その奥から剥きしの苛ちが吹きした。
「ふざけんなよ……」
男のから、く濁った声が漏れた。
「じゃあ何だよ……このヶ、俺がげて、り回って、やってきたことは……全部無駄だったってことかよ!」
部の空気が、凍りついた。
無駄。
その文字が、部の隅々にまで残酷に響き渡った。
ぶりに娘のに現れ、優しい父親を演じ、病気の弟を盾に取って脅し、結婚式をぶち壊してまでかき集めようとしたのすべて。
この男にとって、それは娘と再会したでも、失われた親子の絆を取り戻す々でもなかった。
ただの、「無駄骨」だったのだ。
「……無駄?」
理さんがちがった。その唇は、りで激しく震えていた。
「浩さん……あなた、今なんて言ったの? 無駄って……結ちゃんに対して、それが父親の言う言葉なの!?」
浩はハッとに返ったように線を泳がせ、元を押さえた。
「い、いや……俺は、悠斗が助からないんじゃないかって焦って……」
「もう、取り繕わなくていいよ」
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静かな声だった。
結が、ゆっくりとちがった。
その瞳には、滴の涙も浮かんでいなかった。
の未練も、父親への飢えも、罪悪も、すべてが綺麗さっぱり燃え尽きたあとの、透な静寂。
結は浩のに歩み寄り、その目をまっすぐに見げた。
「お父さん」
「結……違うんだ、お父さんはおの体を配して――」
「つだけ、聞いていい?」
結は男の言い訳を、淡々と遮った。
「もし私が、悠斗くんの役にてなくても……何の役にもたない、ただのでも……お父さん、来の、私の卒業式を見に来てくれる?」
浩の喉が、ヒュッとさく鳴った。
言葉が、てこない。
線が泳ぎ、元を見つめ、居悪そうに肩をすくめる。
たった言。
「当たりだ」「見にくに決まっている」と、父親なら誰でも言えるはずの嘘すら、この男のからはてこなかった。
結というに、利用価値がなくなった瞬、この男ののから「娘」という概そのものが消えっていたからだ。
「……そっか」
結はさく笑った。
泣き笑いでも、自嘲でもない。
ただ、完全にを見限ったの、涼やかな笑顔だった。
「それが、お父さんの本物なんだね」
結はく礼した。
まるで、端で見らぬ誰かにを譲るような、丁寧で、完璧なへの礼。
「今までありがとう。さようなら、浩さん」
「結……おい、結!」
浩が伸ばしたは、空を切った。
結は度も振り返ることなく、私の隣へと戻ってきた。
その肩を抱きしめた私の腕に、結はそっと自分のをねてくれた。