"孤島に捨てられた母✕式場の主賓席に座る亡夫" 第11話
私は、コートのに抱え込んでいた古い布製のバッグのファスナーを、ゆっくりとけた。
取りしたのは、つのものだった。
ひとつは、隅が茶く変し、表面に無数の細かい傷がついた、プラスチックケース入りの類。 、夫がに消えたあと、警察の鑑識から返却された、藤原修の運転免許証の原本。 そして、その裏に挟み込まれていた、初島の岸で撮った枚のカラー写真。
もうひとつは、私が、仏壇の奥底に保管し続けていた、古い借用の公正証の写し。 そこには、に災事故を起こした舶械会社『藤原マリンエンジニアリング』の社印と、代表取締役・藤原修の、実印が鮮に押されていた。
私は演台の男には目もくれず、郎の拓也の目のに、そのつの証拠を差しした。
「佐伯さん。これを見ていただけますか」
拓也のが、恐る恐る伸びた。 震える指先でプラスチックケースを受け取り、線を落とす。
写真のには、代半ばの私がいた。 初島の青いを背にして、まだあどけない美穂を肩し、い歯を見せて誇らしげに笑っている男。 焼けした肌、の眉のにあるさな黒子、そして独特の鋭い鷲。
拓也の喉から、ヒュッと息を呑む音が漏れた。
青の線が、のの写真と、演台につ『本特別顧問』の顔を、狂ったように往復する。
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「な……んだ、これは……」
「拓也君、見る必はない!」
修が演台を叩いた。 ドスンというい音がマイクに乗り、会を震わせる。 男の額には青筋が浮かび、先ほどまでの紳士な笑みは完全に消えっていた。
「そんな悪質な成写真に惑わされるな! 今の良きをぶち壊そうとする、ただの当たりだ! 警備員、何を突っっている! くその女を叩きせと言っているだろうが!」
男の罵声に、会の空気が異様な緊張で張りつめた。 いつも静沈着で、佐伯運の経営陣からも目置かれていたはずの『本顧問』が、目も憚らず声を荒らげている。 その異常さに、参列者たちの表が「審者への嫌悪」から「顧問への疑」へと変わり始めていた。
主賓席の央で、郎の父親である佐伯正臣が、ゆっくりとちがった。 髪を綺麗に撫でつけ、歴戦の経営者特のな威厳を漂わせた老が、鋭いで演台の修を睨み据えた。
「本君」
正臣のく、をうようなが、会のざわめきを瞬で鎮めた。
「君が取り乱す理由が分からんな。に覚えがないなら、堂々としていればいい。拓也、その写真をこちらに見せなさい」
「お、親父……」
拓也がおののきながら、父親に写真を差しそうとした。
その瞬だった。
演台のにいた修が、階段を駆けりてきた。
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そのきは、を過ぎた男とはえないほど素く、そして醜悪な焦燥に満ちていた。 男は正臣のから写真を奪い取ろうとするかのようにを伸ばし、そして——その途で、砂の席で震えている美穂のにちはだかった。
修は、美穂の細い肩を背から鷲掴みにした。 級なシルクのドレスが、男の指の力で無残に引き攣れる。
美穂がさく鳴をげた。
「美穂」
修の声は、マイクを通していなかった。 だが、静まり返った会の列には、その氷のようにたい囁きがはっきりと届いていた。
「おが説しなさい。この女は誰だ。おの母親は、にんだはずだろう。……そうだな?」
男の指が、美穂の鎖骨にい込むほどく締めげられていた。 「んだと言え」 「私を守れ」 「おの贅沢な活のために、もう度この女を殺せ」 その無言の脅迫が、男の全から濁流のように放たれていた。
美穂の体が、刻みにガタガタと震えていた。 マスカラが涙で溶け、い頬のに黒い筋を作っている。 息を吸うたびに、胸元のレースが激しく波打った。
私は歩、娘にづいた。
元には、昨初島のたいコンクリートで汚れた、私の物の靴があった。 その靴のに、美穂の流した涙がポタポタと落ちた。
「美穂」
私は静かに名を呼んだ。
娘の肩が、ねがるように張る。
「言いなさい。あの写真に写っているのは、誰?」
「お、お母さん……やめて……」
娘の声は、掠れて消え入りそうだった。