"孤島に捨てられた母✕式場の主賓席に座る亡夫" 第9話
の芯が、沸騰するようにくなった。 血液が逆流し、界の輪郭が赤く染まる。
あの男は、壇で朗々と語っていた。
「……拓也君の誠実で実直な仕事ぶりは、運の現を預かる私にとっても、何よりの誇りであります。そして本、美穂さんという、これ以ないほど健気で美しい伴侶を迎えられたこと……」
健気。 美しい伴侶。
どのが、それを言うのか。
借を押し付け、事故の責任から逃げし、妻をに仕てげて孤島に置きりにしたたちが、り輝くシャンデリアので『誠実』を語っている。
吐き気がした。 あまりの醜悪さに、胃液が喉元まで逆流してきそうだった。
私はを踏みした。
フカフカとした真の絨毯のを、歩。 また歩。
背でスタッフがさく息を呑む音が聞こえたが、もう私を止められるなど、この会にはもいなかった。
入りくの円卓に座っていた招待客が、私の気配に気づいて振り返った。 怪訝な顔。 違いな乱れた装の女。 ざわめきが、波のように方へと広がっていく。
砂の席でグラスを傾けようとしていた美穂が、その異変に気づいた。
線が泳ぎ、やがて、バージンロードの真んを歩いてくる私を捉えた。
その瞬。 美穂の顔から、すべての表が抜け落ちた。
持っていたいグラスが、カランと音をててテーブルクロスのに倒れた。
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零れたシャンパンが、純のクロスに染みを作っていく。 美穂の唇が刻みに震え、両がドレスの裾を狂ったように握りしめた。
そして、演台の男もまた。 会のざわめきに言葉を止め、怪訝そうに原稿から線をげた。
スポットライトのの向こう側から歩み寄る、私の姿を。 男の瞳が、正面から捉えた。
男の表が、凍りついた。
が半きになり、喉仏が激しく痙攣した。 縁鏡の奥の瞳が、極限まで見かれ、血っていく。
ガタンッ。
鋭い属音が響いた。
男のから滑り落ちたマイクが、演台の目を叩き、のへと転がり落ちたのだ。
キィィィィィィン——。
を劈くハウリングが、静まり返った披宴会の空気を鋭く引き裂いた。
誰も声をさなかった。 百を超える参列者の呼吸が、瞬にして止した。 司会者のから表が滑り落ちる乾いた音すら、聞こえるほどの静寂。
私は、演台のメートルでち止まった。
逃げのない男の顔を、まっすぐに見据える。 震える息を吸い込み、分の絶望と、りと、蔑みを、喉の奥に集めた。
「……修」
私の放った声は、マイクを通さずとも、凍りついた会の隅々にまで届いた。
「藤原修。……、の底でんでいたはずのあなたが、どうしてそこにっているの?」
どよめきが、爆発した。
郎の拓也が弾かれたようにちがり、主賓席にいた佐伯正臣が険しい顔で演台を睨みつける。
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美穂は子に崩れ落ちたまま、両でを覆って刻みに震えていた。
だが。
演台の男——藤原修は。
わずか数秒の揺のあと、信じがたい酷さで顔の筋肉を引き締めた。 に転がったマイクをゆっくりと拾いげると、ハンカチで額の汗を拭い、能面のようにたい線を私に向けて言い放ったのだ。
「……失礼ですが、どちら様でしょうか」
乾いた、どこか事務な声がスピーカーから流れた。
「警備員はどこにいる。佐伯のめでたい席に、緒定な部者を紛れ込ませるとは何事ですか」
「緒定な部者……?」
私の唇からこぼれ落ちた声は、自分でも驚くほどく、掠れていた。
百を優に超える参列者が息を呑む気配が、肌に刺さるように伝わってくる。 誰としてかない。 テーブルに並べられたクリスタルグラスの煌めきも、甘いのりも、すべてが瞬にして凍りついたようだった。
演台のにつ男——藤原修は、縁の鏡の奥から、私を射殺すような徹な線で見ろしていた。 その表には、もはや先ほどまでの揺のはない。 企業の特別顧問という分い鎧をにまとい、目のに現れた異物を排除することだけに識を集させている。
「おい、警備は何をしている。くこの女をつまみせ」
マイクを通した男の声が、井のい会の隅々にまでややかに響き渡った。