"孤島に捨てられた母✕式場の主賓席に座る亡夫" 第5話
「……丈夫です」
私はゆっくりとちがった。 の震えは、もう止まっていた。 恐怖も、寒さも、どこかへ消えっていた。
胸の奥底で、たく澄み切った、鋼のようなりが静かにを帯び始めていた。
私を殺したつもりでいる夫。 私を踏み台にして、に仕てげた娘。
、横浜のホテルで、は笑いっているはずだ。 邪魔な母親を孤島に閉じ込め、すべてをに葬りったと確信して、華やかなグラスを傾けているはずだ。
私はバッグの底から、古びた革の帳を取りした。 には、に警察から戻ってきた夫の運転免許証のコピーと、擦り切れた族写真が挟まれている。
「女将さん。の朝、番のに乗ります」
「……ええ。分だよ。港まで送ってあげるからね」
「ありがとうございます。……私、かなきゃいけないんです」
仏壇の置かれた古いの窓ので、が激しく戸を叩いていた。 漆黒のの向こう側、く本の灯りが、かすかに瞬いているのが見えた。
私はんでなどいない。
、あなたたちが勝ち誇るその所へ、私は私ので歩いていく。
夜がけるの初島は、音のない気に包まれていた。
午。 民宿の障子越しに差し込むは青く、まるで底に沈んでいるかのように部をやしていた。
私は畳のに座り、度もほどかなかったコートの襟元を握りしめていた。
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もできなかった。 目を閉じるたびに、暗いのに浮かぶフェリーのい航跡と、受話器から響いたあの男の乾いた声が、の奥で爆音のように蘇るからだ。
——余計な説はするな。切れ。
いすだけで、喉の奥がからからに張りつく。 、駿湾の底でたい骨になっていると信じ込まされていた夫の調。 その男に怯えながら、実の母親を孤島に置きりにした娘の泣き声。
すべてが、ひとつの線で繋がろうとしていた。
階から、トントンと包丁の規則正しい音が響いてきた。 女将さんが朝の支度をしている音だった。 私は乱れた髪を櫛でえ、バッグを持って静かに部をた。
帳にりると、女将さんが湯気のつ鍋から顔をげた。
「あら、奥さん……起きたのかい。しは眠れたかい?」
「女将さん。昨夜は本当に、ありがとうございました」
くをげる私に、女将さんはさく首を振って、温めた缶入りの緑茶と、アルミホイルに包んだつのきなおにぎりを差ししてくれた。
「これ、持ってきな。顔が真っ青だよ。始発のは、分。港までは歩いて分もかからないけど、がいから気をつけて」
「……いただきます」
温かい缶を両で包み込むと、じんわりとしたが張った指先を溶かしていく。 けれど、胸の奥底に巣った氷の塊だけは、何ひとつ溶けなかった。
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「……女将さん。昨夜、教えていただいたこと」
私が切りすと、女将さんの目がわずかに細められた。
「佐伯運の、佐伯正臣さんという方が……、夫を追ってこの島に来たという話です」
「……ええ」
「あのは、本当に夫が『逃げ込んだ』と言っていたんですね? 遭難したのではなく、きていると確信していたように見えたんですね?」
女将さんはしばらく黙り込み、エプロンの端を指先でいじった。 そして、静かに頷いた。
「違いのないことだよ。警察はね、が漂流していた現の図ばかり気にしていた。でも、あの佐伯という社さんは違った。島の漁師にを握らせて、『あいつがどこかのに乗り換えて島伝いに逃げなかったか』って、鳴り散らしていたんだから。……あの目つきは、を悼む目じゃなかった。裏切った奴をの果てまで追い詰める男の目だったよ」
胃の底が、きゅっと収縮した。
夫・藤原修は、んだのではなかった。 、備事故の責任と巨額の負債から逃れるために、偽装作をして失踪した。 そして、その夫を追っていた男の会社に、美穂が入り込み、その御曹司と結婚しようとしている。
「奥さん、これから横浜にくんだね?」
女将さんのく濁った声が、静かなに落ちた。
「ええ。娘の式へきます」
「……止めはしないよ。でもね、で無茶をしちゃいけないよ。
相は、横浜でも指折りの名だ。