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"孤島に捨てられた母✕式場の主賓席に座る亡夫" 第2話

目のが真っ暗になり、膝の力が完全に抜けた。 コンクリートの壁に背をもたせかけなければ、そのに倒れ込んでいたはずだった。

くなった? 誰が? 私が?

「何を……何を言ってるの……? 私が、んだ……?」

「そう言わなきゃ、結婚できなかったの! 佐伯の基準に、私はわなかったのよ! 父親がで方になって、借まみれで、母親がでパートを掛け持ちして……そんな庭の娘、向こうのお父様が許してくれるわけないじゃない!」

「だからって……んだことにするなんて……」

「お願いだから察してよ! お母さんが式に現れたら、私の嘘が全部ばれるの! 拓也さんにも、ご両親にも……私の、全部めちゃくちゃになるのよ!」

泣きじゃくる娘の呼吸のに、に、別の音が混ざり込んだ。

話の向こうで、いのドアがバタンと閉まる音。 そして、美穂のすぐから、男のく乾いた声が割り込んできた。

苛ちを隠そうともしない、を値踏みして切り捨てるような、特のたい声。

「美穂。もう余計な説はするな。切れ」

臓がねがり、喉元までせりがったあと、瞬で凍りついた。

呼吸が止まった。

その声。 その抑揚。 言葉の語尾をわずかに呑み込むようにしてを突き放す、傲な癖。

忘れるはずがなかった。 、駿湾の暗いに消えたはずの夫——藤原修の調そのものだった。

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「……修、……?」

声をそうとしたが、空気しか漏れなかった。

「お母さん、ごめん……ごめんなさ——」

ツツツ、ツツツ、ツツツ……。

酷な切断音が、宵に包まれた港に響き渡った。

スマートフォンをに押し当てたまま、私はくことができなかった。 指先が直して、画面をタップすることすらできない。

潮が髪を激しく乱していく。 灯がひとつ、ふたつと点灯し、無の岸壁を暗いオレンジに染めげた。

の景が、のようにのを逆流してきた。

修が経営していた、さな舶械の修理会社。 請けとして請け負った貨物の関で起きた、災事故。 備良が疑われ、若い員が、煙に巻かれて命を落とした。 連、自宅のに詰めかけるマスコミと、警察の事聴取。 取引先からの損害賠償請求。膨れがる数千万円の負債。

夜に話が鳴るたび、当だった美穂はを塞いで泣いていた。 修は酒浸りになり、やがてあるの朝、「しを見てくる」と言い残してで港をた。

翌、無のが漂着した。 内には脱ぎ捨てられたウインドブレーカーと、空になった財布。 遺体はがらなかった。 警察は状況から難事故、あるいは自殺として処理をめたが、の確認は永久に取れなかった。

残されたのは、私と美穂だけだった。

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を売り払い、元に残った微々たると親族からの借で急をしのぎ、私はパートをつ掛け持ちした。 朝はの清掃、昼はスーパーのレジ、夜はファミレスの厨。 のひらは洗剤と油でひび割れ、になればアカギレから血が滲んだ。 それでも、美穂にだけは自由ないをさせまいと、をして就職させた。

あの々は、何だったのか。

私が耐え抜いてきたは、体誰のためのものだったのか。

なぜ、んだはずの夫の声が、娘の話の向こうから聞こえるのか。 なぜ、私が血を吐くいで育てげた娘が、私を「の」にして平気で踏み台にするのか。

奥歯がガチガチと音をてて震えた。 悔しさと、恐怖と、得体のれない絶望が胃の底を掻きむしる。

画面を見ると、バッテリー残量はパーセントになっていた。 もう度かけ直そうとしたが、指が止まった。 かけてどうする? 「んだ母親」からの話を、あのが受けるはずがない。

周囲を見渡した。 港の待所は完全に施錠されている。 自販売の青いが、アスファルトのにたい角いを落としていた。 はどこにもない。 本の観客が帰りでち寄るこの島は、最終便がてしまえば、から来たにとって完全な孤島と化す。

寒さが、を通り抜けて骨の髄まで染み込んできた。

コートの襟をかき抱き、私は港の管理事務所としきプレハブのへ向かった。

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