"孤島に捨てられた母✕式場の主賓席に座る亡夫" 第1話
「お母さん、灯台のベンチでし待ってて。切符売りにマフラーを忘れてきちゃったみたい」
娘の美穂がそう言って背を向けたとき、私は何の疑いも持たなかった。
初島の、初のたい潮が容赦なく頬を叩いていた。 空は鉛からいへと沈みかけ、鳥の鳴き声だけがく響いている。
、美穂は横浜の格式あるホテルで結婚式を挙げる。 「式をに、お父さんが昔よく話していたを、お母さんとで見ておきたかったの」 そう幹線ので切りされたとき、胸の奥底がくなったのを覚えている。
、夫がに消えてから、私は女つで美穂を育ててきた。 父親の記憶をほとんどにしなくなっていた娘が、を過ぎ、嫁ぐになってようやく過と向きってくれたのだと——そう信じ込んでいた。
ベンチに腰をろし、膝のに置いたバッグを抱え直す。 指先がかじかんでいた。吐く息がくほどけて、にさらわれていく。
分が過ぎた。
分が過ぎた。
おかしい。切符売りまでは、坂をりても歩いて往復分もかからない。 ちがると、腰のあたりに気が張りついていて、元がわずかにぐらついた。
「美穂?」
声をげても、の音にかき消されるだけだった。 胸の奥に、言葉にできないざらついた違が広がる。
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私はで、舗装された坂を港のほうへとり始めた。
角を曲がり、界がけた瞬、目のの景に息が止まった。
港の待所は、すでにシャッターが半分りていた。 そして、え切ったコンクリートの岸壁の向こう側で、きの最終便が、鈍いディーゼル音を響かせながらゆっくりと岸をれていくところだった。
黒々とした面に、い航跡が鋭く引き裂かれていく。
「嘘……」
わず駆けそうとして、がもつれ、たい面にをついた。 のひらに鋭い痛みがったが、を払う余裕すらなかった。
窓の黄い案内板が、無にも界にび込んでくる。 『便 最終 分』
計の針は、すでに分を回っていた。 今のは、もうない。 島から本へ戻るは、完全に絶たれていた。
喉の奥がからからに渇き、息ががった。 バッグから震えるでスマートフォンを取りす。 液晶画面のに表示されたバッテリー残量は、わずかパーセントだった。
美穂の番号をタップする。 に当てた受話器から、無質な呼びし音が鳴り響く。
プルルル……プルルル……。
頼むからて。置いていかれた。がちゃったの。 ので同じ言葉を何度も繰り返す。
回目の呼びし音のあと、にカチリと通話が切り替わった。
「美穂!? よかった、どこにいるの? がちゃったのよ。
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最終便が……私、港にいるんだけど、あなたどこに——」
返事がない。
受話器の向こうから聞こえてくるのは、かすかなの音と、さく震える擦れの音だけだった。 そして、押し殺したような、細い吐息。
「美穂?」
「……お母さん」
かすれ切った、娘の声だった。 泣いているのか、っているのか判別できないほど、異様に張りつめた声。
「ごめん」
「え?」
「の結婚式、来ないで」
瞬、言葉のが脳に届かなかった。 波の音がので反響して、本語として処理できない。
「……何を言ってるの? 美穂、冗談はやめなさい。お母さん、こんなところにで取り残されてるのよ? 迎えに来て。どうやって本に戻ればいいの?」
「来ないでって言ってるの!」
鼓膜を突き破るような鳴だった。 スマートフォンを握る娘の指が、受話器を軋ませているのが伝わってくるようだった。
「お願いだから、来ないで……。だけでいいから、そこにいて……」
「美穂、正気なの? はあなたの結婚式よ。佐伯さんのご両親にも、親族の皆様にもご挨拶をしなきゃいけない。調した黒留袖だって、ホテルの着付けに届けてあるのよ?」
「もう全部、配し直したから!」
美穂の声が、激しく震えていた。 罪悪と、それを無理やり押しつぶそうとするヒステリックな響きが混ざりっている。
「配って……何を?」
「私……向こうの族には、もう伝えてあるの」
「美穂?」
「『お母さんは、に病気でくなった』って」
全の血液が、の裏から気に抜け落ちていくような覚だった。