"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第16話
制度の鉄板が、音をてて噛みっていく。
で泣き叫ぶ必など、最初からなかったのだ。 あの男が私を檻に閉じ込めようとしたように、今度は社会の法律と契約が、あの男を逃げのない法廷へと引きずりす。
同じ頃、義母もいていた。
彦が付き添い、元の司法士と消費活センターへ相談に向いた。 の伝票の跡鑑定を依頼し、息子に対する当利得返還請求の続きを始したのだ。
彦から送られてきたメッセージには、こうかれていた。
『真由さん、本当にすまなかった。俺が母さんの言葉を信じていれば、あんたをここまで追い詰めることはなかった。隆司のことは、俺と母さんで法にきっちり落としをつけさせる。あんたの請求も、の売却益から最優先で支払わせるように配するから』
族の絆という名の甘えを剥ぎ取られた男たちの、それが現実な責任の取り方だった。
*
曜の夕方。
会社をて、最寄りの鉄の駅へ向かって歩いていたのことだった。
「……真由!」
植え込みのから、にがびしてきた。
臓がねがり、が止まる。 よれよれのスーツを着た夫だった。 ネクタイは曲がり、無精髭が顎面に伸びている。 目元には濃い隈が張り付き、にはコンビニのビニール袋をぶらげていた。
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「真由……頼む、LINEをブロックしないでくれ。話も繋がらないし、会社ので待つしかなかったんだ」
夫が両を伸ばし、私の腕を掴もうとする。 私は反射に歩、ずさりをした。
「づかないでください。ストーカー為として警察を呼びます」
たく言い放つと、夫は怯えたようにを引っ込めた。
「警察なんて、そんな聞きの悪いこと言うなよ……! 俺たち、も連れ添った夫婦じゃないか!」
通の線が、ちらちらと私たちに向けられる。 かつてあれほど「世体」を気にしていた男が、駅ので目も憚らずに懇願している。その滑稽さに、寒気すら覚えた。
「頼むから、弁護士を取りげてくれ。調の通がに届いたんだ。……それに、彦兄さんと母さんからも、内容証が届いた。百万円を全額返還しろって……そんな、どこにもないんだよ!」
「林さんの会社に請求すればいいじゃないですか」
私の淡々とした言葉に、夫の顔が歪んだ。
「林は……あいつはもう連絡が取れないんだよ! 警察が入ったんだ! 俺だって被害者なんだよ! あいつに騙されて、を預けただけなんだ! なのに、どうして俺ばかり責められるんだ!?」
どこまでも、自分の非を認めない。 に騙された被害者面をして、その穴を埋めるために母親と妻のを叩き潰そうとしたことには、ミリの反省もないのだ。
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「真由、おのパートの貯があるだろ? あの百万を戻して、のローンを……」
「私の貯は、私のものです」
私は遮った。
「あなたの穴埋めに使われる筋いはありません。それに、私の百万円も、法為による損害賠償として、あなたの共持分からきっちり回収します」
「そんなことしたら……俺、会社にいられなくなる!」
夫が声を裏返らせた。
「宅ローンの差押えや調なんて汰になったら、コンプライアンスで発アウトだ! 課のポストも格になる! 俺のキャリアが……俺のが全部めちゃくちゃになるんだぞ!? お、それでも平気なのか!?」
駅をき交う々の音が、の奥でく響いていた。
私はバッグから、弁護士の名刺を取りした。 そして、夫の胸元へ、指先で突きすように差しした。
「平気です」
夫の目が、信じられないものを見るように見かれた。
「私のをめちゃくちゃにしようとしたのは、あなたです。……お母さんのを壊そうとしたのも、あなたです」
「真由……」
「度と、私のに現れないでください。次に接触してきたら、接禁止命令の申てをいます」
名刺を夫の胸ポケットに押し込み、私は踵を返した。
背から「真由! 真由!!」と叫ぶ夫の声が聞こえた。 だが、その声は駅の雑踏にかき消され、度と私のには届かなかった。
度も、振り返らなかった。
*
それから、ヶが過ぎた。
季節はを越え、たいのに、かすかにの匂いが混ざり始めたの終わり。