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"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第14話

全部、返せるんだろうな」

「……返せるわけ、ないだろ……」

夫のから、掠れた声が漏れた。

「……何?」

「返せるわけないだろうが!」

ガタアアンッ! と、凄まじい音がリビングに轟いた。

夫が両でテーブルをねげるように叩きつけた。 湯呑みが倒れ、い茶が類のに広がっていく。 羊羹の皿がに落ちて、々に砕けた。

夫の顔から、あの温で当たりのいい「課」の仮面が、完全に剥ぎ取られていた。 血った目を剥きしにし、元を歪め、唾を撒き散らしながら夫は叫んだ。

「ふざけるな! おらがネチネチネチネチのことばかり騒ぎてるからだろうが!」

全員が言葉を失った。

夫は狂ったように首を振り、私と義母を交互に指差した。

「母さんも真由も、黙って言う通りにしてりゃよかったんだよ! 俺が運用して、くいったら戻すつもりだったんだ! それを毎毎『通帳を見せろ』だの『使途を説しろ』だの……! そんなことされたら、俺が追い詰められるだろ!」

「隆司……お……」

彦が絶句する。

夫は自暴自棄になった獣のように、喉を枯らして絶叫した。

「当たりだろ! おらが騒ぎ続けたら、親族から俺が疑われるんだよ! 俺がを横領したってバレるんだよ! だったらおらがボケたことにするしかねえだろ! がおかしい狂の言うことだってことにすれば、誰も信じないんだからよォッ!!」

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部のの空気が、完全に凍結した。

自分の保のために。 母親をボケ老にしたてげ、妻を精神病に仕てげた。 そのを、夫自のから、全員ので叫んだのだ。

静まり返った部ので、計の秒針の音だけが、カチ、カチ、と無質に鳴り響いていた。

に散らばった陶器の破片に、こぼれたい茶がじわりと染み込んでいく。

誰ひとり、声をさなかった。

夫が両でテーブルを支えたまま、荒い息を吐いている。 肩が激しくし、剥きしになった目玉が血っていた。

「……誰も信じないんだからよォッ!!」

さっきリビングに響き渡った絶叫の余韻だけが、壁にぶつかって消えていく。

自分が何をったのか。 その事実のさに、夫自の顔がみるみるうちに気へと変わっていった。 いたが塞がらず、顎が刻みに痙攣を始める。

「あ……いや……違う、今のは……」

夫が両を彷徨わせ、助けを求めるように兄を見た。

「お義兄さん、違うんだ、今のは言葉のあやで……俺がそんなこと本気でってるわけが……!」

兄は歩、ずさりをした。 妹を責めてていたの勢いは、完全に消えっていた。 ただ、目のにいる男の底れない歪みに、本能な恐怖を覚えたような顔だった。

「……お、正気じゃないな」

兄がく吐き捨てた。

「妹を病気扱いして……俺たちを騙して、を巻きげようとしてたのか? 全部、最初から計算して……?」

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「違う! 誤解だ、お義兄さん!」

夫は今度は、実の兄である彦へ縋りつこうとした。

「彦兄さん! 分かってくれるだろ!? 林の投資さえ戻ってくれば、母さんの百万も、の百万も、倍にして返すつもりだったんだ! ちょっと違いがあって配当が遅れてるだけで、俺は族のために……!」

「触るな」

彦の乾いた声が、夫のを払いのけた。

鏡の奥の瞳には、弟に対するなど片も残っていなかった。 酷な、吐き気を催すものを見る目だった。

「母さんに『ボケた』って嘘をついて、俺に説得させたのも、全部おが仕組んだことだったんだな」

「兄さん……」

「俺はな、母さんに話で鳴ったんだぞ。『弟を困らせるな』って。『のせいなんだからしくしろ』って……!」

彦の拳が、くなるほどく握りしめられた。

「母さんがどれだけ怯えてたか、お、っててやったのか? 実の親を狂にして、親族から孤させて……お、か?」

夫の元がふらつき、背のテレビ台に背を打ちつけた。 逃げは、どこにもなかった。 自分が何にも張り巡らせた「善の包囲網」が、そのまま自分を縛りげる縄になっていた。

私は無言でちがった。

の茶の染みを踏まないよう、ゆっくりと廊へる。 背で夫が「真由! 待ってくれ、真由!」とけない声を張りげていたが、度も振り返らなかった。

寝へ入り、クローゼットからスーツケースを引きずりす。

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