"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第12話
この委任状にサインして、実印を押してくれ。そうすれば、おはもうおの計算でを悩ませる必はなくなる。パートも辞めて、でゆっくり休養に専していいんだ」
夫の瞳は、濁りのない優しさに満ちていた。 テーブルの向こうで、兄がく頷いた。
「真由、サインしろ。隆司さんの言う通りだ。おは今、正常な判断ができてない。全部任せて、病院で治療に専しろ。それがおのためだ」
彦も鏡を押しげ、静かに促した。
「母さんのと同じだよ。齢になったり、精神に参ったりしたが、を自分で抱え込もうとするとロクなことにならない。任せられるがいるうちに、任せるのが筋だ」
対。 逃げのない包囲網。 夫は万のキャップをし、ペンの尻を私の方へ向けてテーブルのに置いた。 その元が、ほんの数ミリだけ、満げに吊りがったのを私は見逃さなかった。
勝った、と。 この男は今、ので確信している。
私は万にはを伸ばさなかった。 ただ、膝ので握りしめていた拳をゆっくりとき、く息を吸い込んだ。
「……彦さん」
私の声に、彦が怪訝そうに顔をげた。
「今、『母さんのと同じ』とおっしゃいましたね」
「……ああ。、母さんが定期預のことで騒ぎてたも、隆司がに入ってくれたからな。あのと同じように、専医に任せて……」
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「その、の類が、これですね」
沈黙を守っていた義母が、唐突にをいた。 義母はコートのポケットから、黄ばんだA4用を取りすと、夫が置いた『活状況について』のの、真横にぴたりと並べた。
枚のが、いテーブルのに並ぶ。
夫の眉が、ぴくりとねた。 「……母さん? 何だい、その古いは」
「読みなさいよ、彦」
義母の声は、く、濁っていた。
「あんたが『弟の言う通りにしろ』って私を鳴りつけた、のだよ。隆司が民総病院の物忘れ来の医者に渡した、私の『活状況』さ」
彦が訝しそうに枚のを見比べた。 私の兄も、を乗りして覗き込む。
「……え?」
兄のから、抜けな声が漏れた。
「彦さん、声にして読んでみてください」
私はややかに言った。 彦の線が、枚のをき来する。鏡の奥の瞳が、急速に揺れ始めていた。
「……母親の認能、および銭管理に対する被害妄の兆候」 彦がのを読み、次にのへ線を移す。 「……妻の緒定、および常な被害妄の兆候」
リビングが、を打ったように静まり返った。
「続けて」
義母が促した。
「満期を迎えた定期預について、息子が無断で引きしたとの根拠なき主張……」 彦の声が、掠れ始めた。 「……共座からの資移について、夫が正に隠蔽しているとの根拠のない追及」
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「まだあるわ」
私は自分の元を指差した。
「『本に加齢による衰えの自覚(病識)がなく、族の説得に激昂する傾向』。そしてこちらは、『本に病識は切なく、対話による状況確認が困難な状態』」
言句。 主語が「母親」から「妻」へ、「息子」から「夫」へ置き換わっているだけで、使われている語彙も、文章の組みて順序も、末尾の「医師への配慮の請」まで、完全に致していた。
兄が息を呑み、夫の顔を見た。 彦の顔から、急速に血の気が引いていく。
「……隆司。これ、どういうことだ?」
彦が震える声で尋ねた。 夫の喉仏が、きくした。 だが、夫はまだ崩れなかった。ふっと困ったような笑みを浮かべ、両を広げてみせた。
「何言ってるんだよ、兄さん。母さんの文面を参考にして作ったのは認めるよ。病院に提する活状況の記録なんて、き慣れてないんだから、のフォーマットを流用しただけじゃないか。それがどうしたっていうんだ?」
「フォーマットの流用?」
義母が笑を漏らした。
「じゃあ、このおのき先も、フォーマットの流用かい?」
私は央に置いてあった茶封筒のつをに取り、をテーブルのにぶちまけた。
バサリ、と音をてて散らばった束。 番に置かれたのは、法務局から取得したばかりの、緑の枠線が入った登記事項証。
『アセットマネジメント同会社』
「……何だ、これは」
兄が登記簿を拾いげた。
「資本万円。本所は神田のレンタルオフィス。