みかん小説
本棚

"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第9話

私が、計簿や確定申告の類で見慣れてきた、夫の跡そのものだった。

「……隆司の、字だ」

義母の声が震えた。

「そうです。あの子は、定期預の預け替え類の束のに、この振込依頼を紛れ込ませていたんです。番の用にサインさせ、の類の受取欄を隠したまま、付箋でサインと実印だけを押させた。そして、委任状を持ってでの窓へき、続きを完させた」

義母は狂ったように忘れたのではなかった。 最初から、騙されてサインを奪われていたのだ。

義母の目から、ぽろぽろと粒の涙がこぼれ落ちた。 それは先ほどの恐怖の涙ではなかった。 信じていた息子に、これほど周到に、悪を持って罠に嵌められていたという事実に対する、無残な絶望の涙だった。

「……あの子は、そこまでして……私を……」

「泣いているじゃありません」

私はテーブルのに、先ほどプリントアウトしたアセットマネジメントの登記事項証を叩きつけた。

「相は、私たちのを千百万以溶かしています。そして今、破綻寸です」

登記簿の文字を見つめる義母の顔が、りと戦慄で青ざめていく。

「夫は焦っています。母親から奪った百万円も消え、から持ちした百万円も消えた。これ以、私に追及されたらすべてが破滅する。

広告

だから……」

だから、私を精神科へ送り込む必があったのだ。

私を「病気の妻」にして発言権を奪い、親族ので孤させ、庭の銭管理から完全に締めす。 そうすれば、消えた百万円の使途を追及されることは度とない。

「……でも、真由さん」

義母が掠れた声で言った。

「どうするんだい? 隆司は彦にも、あんたの兄さんにも連絡を入れてるんだろう? あの子たちの目には、私たちがいくら騒いでも『妄』にしか見えないよ。親族全員が、あの子の方なんだ」

「ええ。だから、あいつが番油断する瞬を待ちます」

私はたく微笑んだ。 胸の奥で、分のが、鋭い刃物へと研ぎ澄まされていくのをじていた。

「夫は必ず、次のを打ってきます。私が今、病院へかなかったんですから。親族を巻き込んで、私を完全に屈させるための『決定打』を打ってくるはずです」

その予は、そのの夜、あまりにも骨な形で証された。

*

午過ぎ。 夫が帰宅した。

には、名デパートの袋。には、消化にいい級な料亭のお粥の折詰が入っていた。

「真由、体調はどうだ? べられそうか?」

玄関をけるなり、夫は駆け寄ってきて私の額にを当てた。 配そうに眉をひそめ、慈に満ちた夫の目をしている。

「……し、落ち着いたわ」

「そうか、よかった。無理するなよ。

広告

お粥、温めてやるからな」

キッチンでお粥を温める夫の背を、私はリビングのソファからじっと見つめていた。 この男は、昼に私の実兄へ話をかけ、妹が精神を病んでいると吹き込んだ張本だ。 その舌の根も乾かぬうちに、この完璧な献を演じ分ける。

恐ろしい男だった。 だが、その完璧な仮面の奥に、焦燥のがチラついているのを私は見逃さなかった。

夫はスーツのジャケットを脱ぐと、斎へ向かった。 「の打ちわせの資料をまとめておくから」と言って、ドアを閉めた。

翌朝、曜。

夫は「会社に忘れ物をしたから、午だけ顔をしてくる」と言って、にかけていった。 休の午、がガレージからていく音を聞き届けた瞬、私はちがった。

斎のドアをける。 然と片付けられた本棚、几帳面に並べられたビジネス。 私は迷わず、デスクの元にあるスチール製のキャビネットへ向かった。

鍵はかかっていない。 段目、段目。文具と過の与細。 番の、い引きし。 そこには、夫が使わなくなった古い革のブリーフケースが無造作に押し込まれていた。

ファスナーをける。 には、幾つかのクリアファイルが入っていた。

そののつ、見覚えのない青いファイルを引っ張りした。 表をめくった瞬、私の喉からさな鳴が漏れそうになった。

そこにあったのは、弁護士事務所の相談票の控えだった。

付は、先の末。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: