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"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第8話

「……なんて男」

声が震えた。 りで涙すらない。 ただ、体の芯が氷のようにたくなっていく。

その、私のスマートフォンが鳴った。 義母からだった。

通話ボタンを押すと、受話器の向こうから、今にも崩れ落ちそうなすすり泣きが聞こえてきた。

「……真由さん」

「お義母さん? どうしました? へけたんですか?」

『……嘘じゃ、なかったんだよ』

義母の声は、絶望で震えていた。 周囲の雑踏の音が混ざっている。のロビーか、くの喫茶にいるのだろう。

『窓で、の払戻請求と振込依頼の控えをしてもらったよ。……そこにね、いてあったんだ』

義母の息が詰まる。

『私の名が、私の跡でいてあった。……印鑑もね、私の実印が、はっきりと押してあったんだよ』

……え?

「跡が、お義母さんのもの?」

『そうだよ。私がいた字だよ。実印も、箪笥の奥に隠してある本物の印鑑だった。……真由さん、私、本当に自分でサインしたのかもしれない。私、本当にボケて……自分でを振り込んでおいて、それを全部忘れて、隆司を棒扱いしたんじゃないかい……?』

義母の泣き声が、スピーカー越しにを刺した。

これが、夫の仕掛けた最も残酷な毒だった。 客観な証拠を突きつけられた被害者が、自分自の記憶を、正気を疑い始める。 「もしかしたら、私が狂っているのではないか」という底なしの恐怖。

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「お義母さん、しっかりしてください!」

私は個のでちがり、声を荒らげた。

「今どこですか? すぐにそこへきます。かないで待っていてください!」

*

井友の支くにある、古びた喫茶。 奥のボックス席に、義母はさくなって座っていた。 目のに置かれたホットコーヒーにはもつけず、テーブルのに広げられたA4の複写伝票を、幽霊でも見るような目で見つめている。

私が駆け寄って向かいの席に座ると、義母はおびえたように顔をげた。 わずか数で、歳も老け込んだように見えた。

「これを見なさい……」

差しされた伝票のコピー。 確かに、依頼の欄には『野 』の流れるような達な文字。 そして、朱肉で鮮に押された実印の印。

振込先は、違いなくアセットマネジメント。額は百万円。

「私、やっぱりがおかしくなったんだよ……。自分でこんなを振り込む続きをしておいて、記憶がすっぽり抜け落ちてるんだ。隆司の言う通りだったんだよ……」

義母が両で顔を覆い、肩を震わせる。

私は息をえ、伝票の細部を凝した。 付はの。 窓の受付印。

何かがおかしい。 違の正体を探すように、目を凝らす。

「……お義母さん。の、この何があったか覚えてますか?」

義母は顔をげ、涙で濡れた目を瞬かせた。

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「……? そんなの、覚えてるわけが……」

「いしてください。隆司さんが、お義母さんのに来たんじゃないですか? 何か類を持って」

義母は線を虚空に泳がせ、必に記憶を繰り寄せ始めた。

「……そういえば、あの子がでやってきたがあったね。『郵便局の定期が満期になるから、そのまま置いておくのはもったいない。のな定期に預け替える続きを、俺が全部やってやる』って……」

「その、どんなに類をかされましたか?」

「あの子が……分い申込の束を持ってきてね。『ここに名をいて、ここに実印を押してくれれば、あとの面倒な続きは俺が窓でやっておくから』って言われたんだ。番の用に名をいて……あとは、あの子がページをめくって、『ここにも印鑑』『ここにもサイン』って付箋を貼った所を指差すから……」

私の背筋に、たいが落ちた。

「……ね捺印だ」

私は伝票の、印鑑のを指先でなぞった。

「お義母さん。この伝票の文字、よく見てください。所とお名の跡は確かにあなたのものですが、振込先の『アセットマネジメント』の文字と、額の数字の跡……これ、お義母さんの字ですか?」

義母が息を呑み、鏡をかけ直して伝票に顔をづけた。

依頼氏名の欄の流れるような跡と、受取・額欄の角ばった几帳面な跡。

らかに、異なるつのによってかれている。

角ばった、無質な数字の並び。

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