"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第6話
それとも、無理やりにでもタクシーで連れてこようとするのか。
やがて、受話器の向こうからく、同に満ちた溜息が聞こえてきた。
「……そうか。無理もないよ。ここ数、ずっと神経をすり減らしていたからな。自律神経が限界を超えたんだとう」
優しい声。 吐き気がするほど、完璧な配慮のトーン。
「分かった。今の予約は俺から病院に連絡してキャンセルしておくよ。来週の曜に、もう度枠を取り直すから。今は横になって、体を休めなさい。いいな?」
「……ありがとう。ごめんなさい」
「謝る必なんてないよ。おが番辛いんだから。じゃあ、仕事に戻るから。何かあったらすぐ連絡してくれ」
通話が切れた。 ツーツーという子音を聞きながら、私はたい汗をの甲で拭った。
とりあえず、今というは稼いだ。 だが、義母は険しい顔で首を横に振った。
「するのはいよ。あの子は……隆司は、諦めるような男じゃない」
その予言は、わずか分にした。
午過ぎ。 私のスマートフォンが、激しい振とともに着信を告げた。 画面に表示された名に、私の指が止まる。
『兄(群馬)』
実の兄からだった。 元で務を継ぎ、普段は盆と正にしか連絡を取らない実の兄。
嫌な予が、胃の底を突きげた。 通話ボタンを押す。
「もしもし、お兄ちゃん?」
『真由! お、体どうしたんだよ!?』
広告
をつんざくような声だった。 りと焦燥が混ざりった、切羽詰まった声。
『今、隆司さんから話があったぞ! 会社で泣きそうな声で相談されたんだぞ!「真由が突然倒れてけなくなった、病院へ連れていこうとしたら激しく拒絶された」って! お、自分が何してるか分かってんのか!?』
の芯が、カーッとくなった。
……あいつ。 病院の予約をキャンセルした直に、群馬の兄へ根回しの話を入れたのだ。 「妻が病気なのに受診を拒否しててこもっている」というシナリオを、私の肉親に吹き込むために。
「お兄ちゃん、落ち着いて聞いて。私は倒れてなんかいないし、受診を拒絶したわけじゃ……」
『言い訳するな! 隆司さんはな、おが最のおのことで変な言いがかりをつけてくるって、ずっとで抱え込んで悩んでたんだぞ! 俺にまで気を使って、今まで黙っててくれたんだ! それなのに病院へく約束をドタキャンして、部に閉じこもるって……お、昔から神経質なところがあったけど、限度があるだろ!』
兄の言葉が、容赦なく私の朶を打ちのめす。
夫の張った罠の恐ろしさは、ここにある。 相の「善」を利用するのだ。 方にむ族の「妹を配する気持ち」を利用して、妹自のを縛りげる。 私が真実を訴えれば訴えるほど、兄の目には「狂った妹が優しい夫を攻撃している」
広告
としか映らない。
「お兄ちゃん、隆司さんはの定期預を勝に……」
『またの話か! 隆司さんはちゃんと運用に回してるって説したって言ってたぞ! おが通帳を取りげて騒ぎてるから、仕事にも集できないって……いいか真由、俺が今週末にでもそっちへく。それまで余計な真似はするな。隆司さんの言うことをちゃんと聞け!』
方に話が切られた。
スマートフォンの画面が暗転する。 静まり返ったリビングで、私はち尽くした。
の先から、血の気が引いていくのが分かった。 堀は、もう埋まり始めている。 夫は私を孤させ、逃げをすべて塞ぐつもりだ。 群馬の兄が方についているとい込んでいる限り、夫は揺るぎない正義の顔をして私を精神科へ引きずり込める。
「……悔しいかい」
義母がく呟いた。 顔をげると、義母はたい目で私を見つめていた。
「、私もまったく同じ目に遭ったよ。男の彦から話がかかってきてね。『母さん、隆司を困らせるな。みっともない真似はよせ』って鳴られた。実の息子にそう言われたの絶望が、あんたに分かるかい?」
義母はゆっくりとちがった。 背筋を伸ばし、コートの襟を正す。
「泣いてる暇はないよ、真由さん。先で『私はおかしくない』と叫んだって、誰も信じやしない。必なのは、あの子の嘘を叩き潰すための、言い逃れのできない切れだ」