"狂人にされた私と、義母の同じ受診票" 第2話
その声には、切の悪も刺も含まれていない。 世般の、妻の体をから気遣う優しい夫のトーンそのものだった。
「……うん。の見積もりだけ、力しておこうとって」
声が裏返らないよう、舌の根に力を込める。
夫はグラスを干すと、私の隣に歩み寄ってきた。 そして、私の肩にそっときなを置いた。 ずしりとい。 皮膚を通して、たい脂汗が滲みるような錯覚を覚えた。
「真由。の午、休を取ったから」
「……え?」
「病院、予約したよ。民総病院の療内科。初診の枠がひとつだけ空いてたんだ」
夫は底したように、眉をげて微笑んだ。
「最、眠れてないだろ。預の話だって、おが悪いわけじゃない。が疲れてると、どうしてもが被害妄みたいに膨らんじゃうことがあるらしいんだ。専の先に度診てもらって、軽い眠導入剤でもしてもらおう」
喉の奥が、からからに渇いていた。
目のにいる男は、私が精神科にかかることを決めている。 そして、私が医師のに座らされた瞬、あのクリアファイルに隠したが医師の元に差しされるのだ。
『本は自分が正常であるとく主張しており、医療関への相談自体に拒絶反応を示す能性があります』
私が「私はおかしくない」「夫が勝に百万円をかした」
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と訴えれば訴えるほど。 あのにかれた通りの「病識のない、妄に囚われた患者」が完成する。
完璧な罠だった。 声をすことも、暴れることもできない。 抗えば抗うほど、夫の用した檻の格子が太くなる。
「……そう」
私は元のファイルを抱え込み、必で角を持ちげた。
「予約、取ってくれたんだ。ありがとう」
「いいんだよ。夫婦なんだから、おを守るのは俺の役目だ」
夫は満そうに私の肩を度叩くと、「じゃあ、先に寝るよ」と言って寝へと消えていった。
静まり返ったリビングで、私はち尽くした。 暗のなか、スマートフォンの画面を伏せる。 指先がたく凍りついていた。
泣く気にもならなかった。 ただ、体の奥底からせりがってくるええとした恐怖と、吐き気のようなりだけが胃の腑に溜まっていった。
。 この男のために事を作り、実の法事を取り仕切り、勝な義理の両親の求にもをげてきた。 その結果が、これだ。
を取り戻そうとしただけで。 使途を追及しただけで。 私を「のおかしい女」に仕てげて、社会にを塞ごうとしている。
絶対に、この男の筋き通りにはかない。
私は寝へ戻ると、規則正しい寝息をてている夫の背を見つめながら、音をてずにスマートフォンで先ほどの用を撮した。
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そして原本を自分の通勤バッグの底、裏のファスナーの内側にく隠した。
眠れるはずがなかった。 井の目を睨みつけながら、私は朝が来るのをじっと待った。
*
翌朝、曜。
午半。夫はいつも通りの爽やかなスーツ姿で玄関にった。
「午半に病院ので待ちわせな。無理してを運転するなよ。バスで来るか、タクシーを使いな」
「ええ。分かってる」
見送りの笑顔を完璧に作り、ドアを閉める。 夫の乗ったセダンのエンジン音がざかっていくのを確認した瞬、私は玄関のがり框にへたり込んだ。
は、午半までしかない。 会社には体調良で休むと連絡を入れた。 だが、どこへけばいい? 警察か? 「夫が私を精神病にしようとしています」と駆け込んだところで、民事介入の言で片付けられるのが関のだ。 むしろ、警察から夫に連絡がいけば、「ほら、妻の妄が悪化して警察にまで駆け込んだ」という決定な既成事実を与えてしまう。
計の針が、無慈に半を回った。
そのだった。
ピンポーン、と。 甲い玄関のチャイムが、静まり返った廊に鳴り響いた。
臓が喉までねがった。 夫が忘れ物でも取りに戻ってきたのか。 息を殺してインターホンのモニターを覗き込む。
画面の向こうにっていた物を見て、私は目を見いた。
野 。 夫の母親。私の、義母だった。
歳になる義母は、で分ほどの距にある古びた戸建てで暮らしをしている。