"五万円で捨てられた娘" 第13話
「おに何がわかる! 俺はの男だぞ!」
「男だから何?」
遮った私の声に、兄は言葉を失った。
「母さんが夜に痛みに耐えて泣いていたとき、背をさすったのはあなたじゃない。 透析の針の跡が痛々しくて見ていられないって、病院から逃げしたのもあなたよ。 母さんがこのを私に遺したのは、血の繋がりなんかじゃない。 母さんと私が、で積みねてきたがあったからだよ」
兄の唇が、けなく震えた。
「美咲、頼む……百万じゃりないなら、千万……」
「いらない」
私は踵を返した。
「円もいらない。このは渡さないし、あなたに妥協もしない。 渡りがるなら、自分で責任を取りなさい。 あなたがに始めた嘘のツケを、母さんや私に払わせないで」
「美咲!! 待て! 美咲ッ!!」
背で響く兄の絶叫を置きりにして、私は実の玄関の引き戸をけた。 のたい気が、照った頬を撫でる。 扉のでは、森田弁護士が静かに待っていてくれた。
「……終わりましたか」
「はい」
私はくをげた。
「先、続きをお願いします。母の遺言通りに」
森田弁護士は、穏やかに、しかし力く頷いた。
「承いたしました」
それからの週は、嵐のように過ぎった。
森田弁護士の続きは迅速だった。 公正証遺言に基づき、実のと建物の所権移転登記は、兄の同を切必とせずに私の単独名義へと変更された。
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兄がに受け取っていた千万円を超える資援助は、正式に「特別受益」として確定し、兄が主張しようとしていた遺留分侵害額請求の余は完全に消滅した。
末、兄の内装会社は形を決済できず、取引止処分を受けた。 事実の倒産だった。
義姉は実から姿を消し、婚調を申してたと、の噂で聞いた。 兄がそのどうなったのか、正確なところは分からない。 自己破産の続きに入ったとも、方のの現で雇いの仕事を始めたとも聞いたが、私のスマートフォンに兄からの着信が入ることは度となかった。 森田弁護士が送った受任通と警告が、兄の接を法に完全に遮断していたからだ。
季節は巡り、枯らしが吹き抜けるの初旬。
私は、数ヶぶりにで実のにっていた。 名義は、完全に私のものになっていた。 誰も私を「赤の」と罵る者はいない。 勝に鍵をこじけようとする者もいない。
鍵を差し込み、静かに玄関の引き戸をけた。 「ただいま」 誰もいない暗い廊に、私の声がさく落ちる。
のは、母がきていた頃の匂いがまだ微かに残っていた。 私はエプロンを締め、マスクをつけると、母の遺品理を始めた。 の押し入れをけ、古い布団や母が切にしていた着物を、箱ずつ段ボールに詰めていく。
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押し入れの最段の袋。 埃をかぶった段ボール箱の奥に、季の入った茶い革のバッグが押し込まれていた。 を伸ばして引きろす。 ずっしりとしたみがあった。
ファスナーをけると、からてきたのは、分い布張りのアルバムだった。
表の文字は、すっかり擦り切れている。 畳のに正座し、埃を払ってページをめくった。
ページ目には、まだ黒にいいで、若きの父と母、そしてランドセルを背負った幼い兄が写っていた。 自げに胸を張る兄の姿。
ページをめくる。 ページ目をいた瞬、私の呼吸が止まった。
そこには、見覚えのない枚の写真が貼られていた。 まだ髪のい、歳くらいのさな女の子を、母が病のようなベッドので、抱きしめるようにして抱いている写真だった。
女の子の顔は、私だった。
写真の台の余に、母の端正な万の文字で、こう記されていた。
――昭。 美咲が、のにやってきた。 桜のびらが、庭のびにたくさん散っていた。 今から、この子が私の娘。 神様、私にこのさなを守るさをください。
界が、急激に滲んだ。
ページをめくった。 歳の私。母のを握って、神社の鳥居ので笑っている。 『初めての。履が痛いと泣いて、お父さんに抱っこされた』
学の入学式。
『美咲の黄い子。