"五万円で捨てられた娘" 第11話
「千万……?」「直、お、そんなにを……」
「違う! それは母さんが勝に――」
「直さん!」
遮ったのは、義姉だった。 義姉は血相を変えて兄の肩を掴み、叫ぶように問い詰めた。
「あなた、に会社をちげた、全額から借りたって言ってたじゃない! あの借の返済で、うちがどれだけ苦労したとってるの!? お母様から千百万も貰ってたなんて、私、度も聞いてないわよ!」
「真理子、おは黙ってろ!」
「黙ってられるわけないでしょ! じゃあ、あの消えたおはどこにったのよ!?」
完璧だったはずの兄夫婦の元が、音をてて崩れていく。 義姉は、方などではなかった。 ただ、夫の嘘のに胡をかいていただけの、もうの被害者に過ぎなかったのだ。
啓介叔父がわざとらしく咳払いをし、眉にい皺を刻んでをいた。
「……まあ、直が過にを無していたとしてもだ。それは親子ののの話だ。法には、血の繋がった男である直と、養子である美咲。で分けるにしても、半分は直のものだろう。美咲、おが全部を独り占めできる理由にはならんぞ」
男びいきの叔父が、なおも兄を庇いてしようとを挟む。 兄はその言葉にすがるように、目を血らせて私を睨みつけた。
「そうだ! 過のがどうあれ、今回の相続は別だ! 遺産分割協議がわなきゃ、このはおのものにはならない! 俺がハンコを押さなきゃ、永にな!」
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森田弁護士が、静かに鏡の位置を直した。
「いいえ。協議の必はありません」
「……あ?」
森田弁護士はブリーフケースの底から、厳封された通の公正証を取りした。 菊の紋章が刻まれた、な公証役の用。
「平成。神田公証役にて、公証および名の証ち会いのもと、悦子様が作成された『公正証遺言』です」
座敷の空気が、完全に凍りついた。
「読みげます。『遺言者・悦子は、その所する末尾記載のおよび建物のすべてを、女・美咲に相続させる』」
兄が息を呑む音が、はっきりと聞こえた。
「遺言には、付言事項としてお母様の直のメッセージも添えられています。『男・直には、においてすでに額の資援助をっており、法定相続分をきく超える特別受益がする。よって、産のすべてを、にわたり私の療養護に尽くしてくれた美咲に単独で取得させる』」
森田弁護士は顔をげ、兄の目をまっすぐに見据えた。
「公証役で作成されたこの遺言は、形式にも実質にも完全な効力をしています。美咲さんは、直さんの署名や捺印が切なくとも、単独でこの実の相続登記を完させることができます」
「嘘だッ!!」
兄がちがり、座卓を蹴りばすように鳴り散らした。
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湯呑みが倒れ、畳のに緑の茶が広がっていく。
「そんな遺言、無効だ! 母さんはボケてたんだ! こいつが無理やりかせたんだよ! 遺留分だ! 俺には実の子としての遺留分があるはずだろ!!」
「遺留分侵害額請求ですね」
森田弁護士の声は、どこまでも静だった。
「ご主張されるのは自由です。しかし、過の特別受益――贈与された千万円超の額を持ち戻して計算した、あなたの遺留分はすでに幅にマイナス、つまり受取額が限度を超えています。裁判を起こされても、あなたが美咲さんから得られる銭は、円もありません」
「う……あ……」
兄の喉から、声にならない呻きが漏れた。 膝の力が抜けたのか、兄はそのに崩れ落ちるように座り込んだ。
叔父も、叔母たちも、もはや誰として兄を庇う言葉を発しなかった。 ただ、沼の真実を見せつけられ、気まずそうに目を逸らし、居悪そうにじろぎしているだけだった。
「本の話しいは、これで終とさせていただきます」
森田弁護士がちがり、々と礼した。 私もちがり、倒れた湯呑みを元に戻すこともせず、のへと歩をめた。
逃げるように親族たちが席をち、玄関へと向かっていく音が聞こえる。 義姉は兄に目もくれず、吐き捨てるように「もう勝にして!」と叫んで実をびしてった。