"五万円で捨てられた娘" 第10話
お母様が認症気だったのをいいことに、同居して全部抱え込もうとして……」
襖を、音をてて引きけた。
座敷の空気が、瞬で止まった。
座にあぐらをかいていた兄。 その隣で茶を配っていた義姉。 そして、座卓を囲んでいた母の弟である啓介叔父と、の叔母。 全員の線が、私と、私の背につ見らぬスーツ姿の男性へと突き刺さった。
「……美咲」
啓介叔父が、そうに眉をひそめた。 域の名士気取りで、昔からの「男絶対主義」を誰よりも声に叫んできただった。
「遅いぞ。親族を待たせておいて、その態度は何だ。それに……ろの男は誰だ」
「ご無汰しております、叔父様」
私は座敷の敷居を跨ぎ、座の畳のに正座した。 森田弁護士も無言のまま私の隣に腰をろし、ブリーフケースを膝のに置いた。
兄が舌打ちをして、座卓をドンと叩いた。
「おい美咲、何の真似だ。親族の話しいに赤のを連れてくるな。今呼んだのはな、おがくだらない気をして実に居座ろうとしてるから、親戚同のでケジメをつけさせるためだ」
義姉がすかさず、座卓のに昨の遺産分割協議と朱肉を滑らせてきた。
「美咲ちゃん。おじ様たちにも全部事は話してあるわ。あなたが養子だってこともね。実の息子である直さんがを継ぐのが、の筋でしょう? いつまでも駄々をこねてないで、くここに実印を押しなさい」
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叔母たちから、ややかな線がんでくる。 「育ててもらった恩があるだろうに」「の娘が、男を差し置いてを欲しがるなんてみっともない」――。 々に囁かれる言葉が、針のように皮膚に刺さる。
かつての私なら、この空気だけで息が詰まり、泣きながらをげていたかもしれない。 でも、今の私には見えていた。 兄の目のに刻まれた濃い隈。 折、胸ポケットのスマートフォンを気に病むように触る、刻みに震える指先。
この男は、勝っているのではない。 ただ、崖っぷちで掻いているだけだ。
「失礼いたします」
く、よく通る声が座敷を制した。 森田弁護士が胸元から名刺入れを取りし、座卓の央にすっと滑らせた。
「くなられた悦子様の対策および遺言執を担当しております、弁護士の森田と申します」
弁護士という肩を目にした瞬、叔父たちの表がわずかに張った。 兄が眉を釣りげ、唾をばすように叫ぶ。
「弁護士だと!? 母さんがそんなもん雇うわけねえだろ! 美咲、てめえが勝に連れてきたペテン師か!」
「お静かに、直さん」
森田弁護士は切声を荒らげず、ブリーフケースから分い類の束を取りした。 そして、ホッチキスで留められた類を、叔父、叔母、そして義姉のに部ずつ配っていった。
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「まず、直さんが『男が実を継ぐのが筋だ』と主張されている点について、客観な事実をご確認いただきます」
義姉が怪訝そうに類をめくった。 表には、『産売買契約』の文字。
「今から、直さんはご自の内装会社の資繰りのため、お父様から相続していた実の持分分のを、お母様に売却されました。売買代は、千百万円」
「……は?」
義姉のから、抜けな声が漏れた。 義姉は類の末尾にある、兄の直の署名と実印、そして領収証のコピーをい入るように見つめた。
「直さん……? これ、何? 千百万って……」
兄の顔から、急速に血の気が引いていくのが見えた。
「な、何を昔の話を持ちしてんだ! それは当の事業の話で――」
「昔の話だけではありません」
私はバッグから、母のあのクラフト封筒を取りした。 母が遺した、数分の送記録と払込受領証の束。
「平成、百万円。平成、百万円。平成、百万円……」
私は枚枚、付と額を読みげた。 静まり返った座敷に、私の声だけがたく響く。
「母さんは、あなたが『会社が潰れる』と泣きつくたびに、父さんの遺産やからおを面して振り込んでいました。の千百万円を含めれば、母さんからあなたへ渡ったおは、千万円を超えています」
座卓を囲む親戚たちが、斉にざわめいた。