"五万円で捨てられた娘" 第7話
母の法定相続です」
バッグから取りした戸籍謄本のコピーと、私の運転免許証を卓に置いた。 営業マンの目が、私の名に止まり、それから激しく泳ぎ始めた。
「あの……直様からは、相続はご自おで、妹様はすでにすべての権利を放棄することに同されていると伺っておりますが……」
「同など、度もしていません」
乾いた声で、はっきりと言い切った。 営業マンの額に、じわりと脂汗が滲みるのが見えた。
「産の売買契約は、すべての相続の同と登記完がなければ成しないはずですよね。直さんは、あなた方に何と言ってこの話を持ち込んだんですか?」
男は唇を噛み、周囲を気にしながら、声を潜めて元の分いファイルをめくった。
「……来週の曜までに、付の受領と仮契約を済ませたいとく急がれていました。相より割以い、いわゆる『投げ売り』の価格設定です。直様は、務の事業資として、今末までにどうしても現千百万円を用しなければならない、と」
末。 今から、あとらずだった。
「形ですか」
織が横から鋭くを挟んだ。 営業マンは曖昧に線を逸らしたが、否定はしなかった。
「形が落ちなければ、取引止処分……つまり、事実の倒産です。直様は『妹の印鑑は週けの曜には確実に揃うから、曜の内覧だけ先に通してくれ』と、半ば引に買いとのアポイントをねじ込んでこられまして……」
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全の血が、音をててえていくのをじた。 兄は、自分の会社の息の根が止まる寸だったのだ。 だから、母の初が終わるのを待ち構え、あの座卓に万円を放り投げた。 私が揺して泣き寝入りし、実印を差しすまでの猶予は、兄にとって今週末しかなかったのだ。
「この物件の専任媒介契約は無効です」
私はちがり、営業マンの目をまっすぐに見つめた。
「共名義である私ののない売却続きは、切認めません。もしこれ以、直さんの単独判断で内覧や契約をめるなら、弁護士を通じて貴社に対しても法な責任を問います」
営業マンは真っ青になり、々とをげた。
をると、のはすっかりたくなっていた。 織が助席の私の肩をぽんと叩いた。
「美咲。あいつ、完全に首が回らなくなってるわ。だからこそ、曜に何をしてくるか分からない。実、度戻るんでしょ?」
「うん。着替えもだけど……母さんの部に、確かめておきたいものがある」
母が使っていた、の桐のタンス。 その奥に、母が絶対に兄には触らせなかった古い製の裁縫箱があった。 幼い頃、私がをして寝込んでいるとき、母がその裁縫箱から古い通帳や封筒を取りしては、で卓を叩いていた記憶が、急激に脳裏に蘇っていた。
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夕暮れ、私たちは実のくのコインパーキングにを止めた。 目を避けるように、裏の勝へ回る。 鍵を差し込み、静かにドアノブを回した。
カチリ、とい属音が響き、扉がく。
のは、母がくなったあののまま、ひっそりと静まり返っていた。 薬品の匂いと、仏壇の燃え尽きた線のの匂い。 音を忍ばせて廊を渡り、母の寝だった畳のへ入った。
仏壇の遺のの母は、穏やかな笑みを浮かべて私を見つめている。 私は遺のでさくをわせ、それからのに置かれた古い桐タンスのに膝をついた。
番のい引きし。 着物のから、布で包まれた方形の箱を引きす。 母が嫁入り具として持ってきたという、指物細の裁縫箱だった。
蓋をけると、とりどりの絹糸や錆びかけたハサミが然と並んでいる。 底になっている底板の端に指をかけ、慎に持ちげた。
カサリ、と乾いた音がした。
底から現れたのは、茶く変したクラフトの角形封筒だった。 封筒の表には、母の細くった跡で、こうかれていた。
『直への貸付・送記録 悦子』
封を切り、を引きす。 指先が震えた。
に入っていたのは、枚や枚ではなかった。 の払込受領証、現留の控え、そして母のきのノート。