"五万円で捨てられた娘" 第4話
「直さんは、自分の会社を救うために、自分が持っていた実の持分分のを担保にを借りたいと言いしました。しかし、そんなことをすれば、いずれ実そのものが競売にかけられかねない。そこでお母様は、きお父様が遺してくれた命保険とご自の退職のほぼ全額を取り崩し、直さんの持分分のを、正当な価格で買い取ったのです」
弁護士の指が、千百万円という数字をなぞった。
「お母様は、直さんを救うために千百万円をキャッシュで支払いました。そして直さんは、この契約によって、実に対するすべての所権を完全に放したのです。登記簿も、直さんの持分はお母様に移転しています」
の奥で、カチリと音をててパズルのピースがはまる覚があった。
「兄さんは……に、実の権利を母さんに売っていた……?」
「そうです」
森田弁護士は静かに、しかし断固とした調で言った。
「直さんは、にすでに、実から得られるはずの遺産の先払いを千百万円という現で受け取っているのです。にもかかわらず、あの男は昨、あなたに向かって『実は男の俺が継ぐのが当たりだ』とうそぶいた。自分が過に権利を売り払った事実を、あなたに完全に隠したままで」
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血が逆流するような覚だった。 昨夜の兄の顔。 「おは赤のだ」と嘲笑ったあの顔。 財布から投げ捨てられた、っぺらな万円の札束。
兄はっていたのだ。 自分にはもう、実を当然のように独占する権利などないことを。 過に母から巨額のを吸いげ、実の権利すら売り払っていたろ暗い過を。 だからこそ、何もらない私に『養子』という残酷な事実を打ちで突きつけ、罪悪と疎で私の考を奪い、力づくで印鑑を押させようとしたのだ。
「……ひどい」
爪がのひらにい込み、痛みを覚えた。
「兄さんは、全部っていて私を騙そうとしたんですね。私が、自分が養子だってったら、怖くて何も言えなくなるって分かってて……!」
「その通りです」
森田弁護士はしげに目を細めた。
「お母様は、直というを痛いほどよく理解しておられました。だからこそ、ご自が病に倒れ、期を悟られたとき、私のもとへこの契約を預けに来られたのです。『直は、私がんだら必ず美咲からを奪おうとする。あの男の嘘に、美咲を負けさせないでくれ』と」
母の顔が浮かんだ。 病院のベッドで、抗がん剤の副作用に耐えながら、痩せ細ったで私のを握りしめていた母。 「美咲、ごめんね。苦労ばかりかけて」と、消え入りそうな声で繰り返していた母。
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母は、病気と闘いながら、の直まで私を守るための武器を用してくれていたのだ。
涙がこぼれ落ちそうになるのを、私は必でこらえた。 ここで泣いてはいけない。 母が残してくれたものを無駄にしてはいけない。
「先。この契約があれば、兄の企みは止められますか? 兄には相続する権利はないと、突きつけることができますか?」
すがるような私の問いに、しかし、森田弁護士はゆっくりと首を横に振った。 その顔には、法律としての徹で厳格な現実が刻まれていた。
「いいえ、美咲さん。ここからが、極めてな法な現実です」
「……え?」
「このの売買契約は、直さんが嘘をついているという決定な証拠にはなります。しかし、これだけで『直さんの今回の相続権が消滅する』わけではありません」
弁護士は帳をき、ボールペンでに図を描き始めた。
「の件は、あくまで過の産の持分売買です。今回発したのは、お母様がくなられたことによる『たな相続』です。直さんは実子であり、民法の推定相続であることに変わりはありません。過に千百万円を受け取っていたとしても、それは『特別受益(贈与や遺産の先払い)』として遺産分割の計算で考慮される能性はありますが、それだけで彼の相続資格そのものが自に剥奪されるわけではないのです」
「じゃあ……兄さんはまだ、あのを寄越せと言えるんですか?」