"五万円で捨てられた娘" 第3話
「まず、確認させてください。昨夜、あるいは今朝、お兄様から何か言われましたか」
私は膝のでバッグを握りしめながら、昨夜起きたことをすべて話した。 戸籍謄本を突きつけられたこと。 自分が養子だと初めてったこと。 遺産分割協議にすべてを兄に譲るとかれていたこと。 万円を投げつけられたこと。 そして、来週にはを売り払おうとしていること。
話しているうちに、けなさと悔しさで喉が詰まり、何度も言葉が途切れた。 森田弁護士は相槌を打つこともなく、ただ私の目を見て、静かにすべてを聞き届けてくれた。
私が話し終えると、弁護士はく息を吐き、鏡をして眉を指先で押さえた。
「……やはり、直さんはそうましたか。お母様の懸していた通りになりました」
「先、私……本当に、母さんの娘じゃないんでしょうか」
番聞きたくて、番聞くのが怖かった問いが、からこぼれ落ちた。 森田弁護士は鏡をかけ直し、まっすぐに私を見つめた。
「法な事実から申しげます。昭、お母様ときお父様は、あなたと正式に養子縁組を結ばれました。本の民法において、養子は実子と何ら変わりのない『第順位の法定相続』です。血が繋がっていないからといって、相続権が減ることも、奪われることも絶対にありません」
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弁護士の声は、迷いのない鉄のように響いた。
「直さんが言っている『赤のだから権利がない』という主張は、完全な虚偽であり、法な根拠はミリもしません。もし遺産分割協議にあなたがサインしなければ、直さんが単独で実の名義を変更することも、売却することも法に能です」
胸の奥の氷が、ピシリと音をてて割れたような気がした。
「でも……兄は、あんなに堂々と……」
「あなたがご自の自をらないことを利用し、精神に追い詰めて、考える隙を与えずに実印を押させようとしたのでしょう。極めて悪質です」
森田弁護士はそう言うと、持っていた革のファイルから、際分い茶封筒を取りした。 封筒の表面には、母の几帳面な文字で『直の件・保管用』とかれていた。
「美咲さん。直さんは昨、あなたに何と言いましたか? 『実は跡取りである自分が相続するのが筋だ』と、そう言いませんでしたか?」
「……はい。言いました」
「これを見てください」
弁護士が封筒から引きしたのは、端がわずかに黄ばんだ、ホッチキス留めの類だった。 表には、はっきりとこうかれていた。
『産売買契約』。
付は、の。 契約当事者の欄には、売主として兄・直の氏名と当の所。 買主として、母・悦子の氏名。
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そして契約額の欄には、信じられない数字が記載されていた。
――壱千百万円。
「……千百万?」
わず声が漏れた。
「これは、体……」
「順を追って説します」
森田弁護士は類をめくり、最のページを私に向けた。 そこには、違いなく兄の自の署名と、兄の実印が鮮に押されていた。 その隣には、千百万円を正に受領したという兄のきの領収証まで添付されていた。
「、あなた方のお父様がくなられた際、実のと建物は、お母様が分の、直さんが分の、美咲さんが分のという法定割で共名義として相続登記されました。覚えていますか?」
「はい……父がくなったとき、何か類に名をいた記憶はあります。でも、母から『美咲はそのままでいいのよ』と言われて、すべて母に任せていました」
「ええ、それで違いありません。問題は、その――今からです」
森田弁護士の表が険しさを増した。
「当、直さんは内装事業をちげましたが、見通しの甘さからすぐに資繰りにき詰まりました。にい利貸しにまでをしかけ、泣きついてきた先が、お母様でした」
私の脳裏に、の記憶が甦った。 当、兄は実に何度も鳴り込んできては、母と奥の部で何も密談していた。
母はやつれ、夜になると台所で、ため息をついていた。 私は学を卒業して就職したばかりで、兄が何のトラブルを抱えているのか、詳しいことは何もらされていなかった。