"五万円で捨てられた娘" 第2話
「私、らなかったの」
声が震えて、奥歯がカチカチと鳴った。
「母さん、度もそんなこと言わなかった。私を産んだのは自分じゃないなんて、度も……。アルバムにも、運会の写真にも、全部、母さんのきで『美咲へ』っていてあったのに」
「美咲」
織が私のにしゃがみ込み、私の膝のにを置いた。
「あんた、その協議にサインする気?」
「わからない。私……本当に母さんの娘じゃないなら、あのにいる権利なんて、ないんじゃないかって……」
「バカ言わないで!」
織の声が狭い部に響いた。
「よ? あのクソ兄貴がゴルフってるも、あんたは母さんのの世話まで全部で背負ってきたのよ! 法律がどうなってるかはらないけど、そんな仕打ち、絶対に納得しちゃダメ。あんたが逃げたら、あいつらのう壺じゃない!」
胸が苦しかった。 納得などできるはずがない。 けれど、信じてきた「族」という台が元から崩れった恐怖は、りよりもく私をみ込んでいた。 私はあので、母にとって、何だったのだろうか。
眠れないまま朝を迎えた。 午を告げるスマートフォンのアラームとほぼ同に、着信画面がった。 画面には『兄』の文字。
通話ボタンを押す指がい。
「もしもし」
『おい、昨はよくも黙ってていってくれたな』
受話器の向こうから、荒々しいのクラクションと、兄の苛った声が聞こえた。
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『役所への続きがあるんだよ。今に印鑑登録証と実印を持って、実に来い。ぐずぐずしてるはないんだ』
「……母さんがくなって、まだ週よ。どうしてそんなに急ぐの」
『おには関係ない。来週の曜には、産が買いを連れて内覧に来るんだ。く更にするか売却の契約を結ばなきゃならねえんだよ』
「売る?」
を疑った。
「あのを、売るの? 母さんが切にしてた庭も、父さんが建てたも、全部?」
『俺が相続するんだから、俺がどう処分しようと俺の勝だ。戸籍を見たろ? おには指本触れる権利もないんだよ。今来ないなら、部の荷物は全部ゴミ袋に入れて処分するからな』
方に話が切れた。 プツッという無質な切断音のあと、ツーツーという子音だけがの奥に残る。 胃のあたりが雑巾のように絞られる痛みがした。 母が庭に植えた茶が、ちょうど蕾をつけ始めたばかりだった。 あのを、母の体温がまだ残るあのを、兄はに変えることしか考えていない。
そのとき、スマートフォンの画面に着メールの通が表示された。 見らぬ法律事務所からのメールだった。 件名には『悦子様の件について(至急)』とある。
悸を抑えながら、メールをいた。
『美咲様 突然のご連絡にて失礼いたします。
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当職は、くなられたお母様・悦子様より、に対策および遺言に関するご相談をお引き受けしておりました、森田法律事務所の弁護士・森田と申します。
お母様より、かねてより厳な言付託を受けておりました。 「もし私の、直が美咲に対して戸籍の話を持ちし、何かをするようなことがあれば、何ひとつ類に署名捺印するに、必ず美咲を私のところへ寄越しなさい」と。
本、ご都はつきますでしょうか。 至急、お見せしなければならない類がございます』
息が止まりそうになった。 母が。 に、弁護士へ。
「織、私……ってくる」
コートを羽織る私のを、織がく握りしめた。
「ってきな。絶対に、向こうの言いなりになってハンコだけは押しちゃダメよ」
神田駅から歩いて数分の、季の入ったオフィスビルの階。 『森田法律事務所』の曇りガラスの扉を押しけたとき、私のはまだ鉛のようにかった。
応接に通されると、髪の混じった髪に、落ち着いたグレーのスーツを着た初老の男性がちがった。 細い縁の鏡の奥にある瞳は、驚くほど静かで、温かかった。
「美咲さんですね。よくいらっしゃいました。変な期に、急な呼びしをして申し訳ありません」
森田弁護士は丁寧にをげ、私に向かいのソファを勧めた。
お茶をしてくれた事務員が部をていくと、森田弁護士は元の革のファイルをいた。