"五万円で捨てられた娘" 第1話
「お、本当の娘じゃないから」
母の初の法が終わり、親戚たちが引き取った直のことだった。 まだ線の匂いがくち込める実のリビングで、兄は座卓のに枚のを放りした。
湿り気を帯びたのが、障子をかすかに揺らしている。 兄の隣には、黒い喪を着た義姉が、腕を組んで値踏みするように私を見ろしていた。
「……何、これ」
喉の奥が乾いて、かすれた声しかなかった。 の表題には、黒々と『戸籍謄本』と印字されていた。 震える指先でそのを引き寄せる。 母の氏名、父の氏名、兄の氏名。 そして、私の名の横に、見慣れない活字がたく並んでいた。
――民法百条ノニヨル養子縁組。
昭。 私が歳のときの付だった。
「……養子?」
「言葉通りのだよ。母さんがお好しだから、今まで黙って育ててくれただけだ」
兄は座布団のであぐらをかき、煙を吸おうとして、義姉に目配せされてポケットに戻した。 その顔には、実の母親をくしたばかりの男のしみなど、欠片も浮かんでいなかった。 あるのは、隠し持っていた切り札をようやく切ったの、歪んだ達成だけだった。
「おももうだ。いい歳したが、血の繋がらないにいつまでも居座るつもりじゃないだろうな」
義姉が、兄の脇から別の類を滑らせてきた。
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に几帳面なフォントで印字されたタイトルが見えた。 『遺産分割協議』。
「美咲ちゃん、わかるでしょ? お母様名義のこのと建物、それから預貯のすべては、跡取りである直さんが単独で相続する。それが筋ってものでしょ」
義姉の爪は、喪に釣りいなほど入れされた淡いピンクだった。 その指が、協議の末尾、空欄になっている私の署名捺印欄をトントンと叩く。
「……待ってよ。母さんの介護、最のはずっと私がやってた」
臓が肋骨の内側を激しく叩いていた。 界の端がくかすむ。
「透析の送り迎えも、週にの通院も、夜に母さんが腰を痛めて泣いたときも……兄さんはに、回顔をしただけじゃない。全部、私が仕事をパートに変えて……」
「だから何?」
義姉がで笑った。え切った笑い声が、誰もいなくなった仏に響く。
「介護なんて、同居してご飯べさせてもらってたんだから当たりじゃない。まさか、赤ののくせに、本物の息子と同じ権利を主張する気? 恩を仇で返す気かしら」
「美咲」
兄がい声で私の言葉を遮った。 兄はズボンのポケットから革の財布を取りすと、千円札でも放るようなつきで、万円札を枚、座卓のに並べた。 青いインクの匂いが微かに漂う、ピン札ですらない枚の札。
「ほら、これまでの賃だ。
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万ありゃ、今夜の宿代と引っ越し準備のしにはなるだろ。自覚を持てよ。おはもう、こののじゃないんだ」
万円。 の私の活、失った正社員のキャリア、母のオムツを替え、認症の初期症状で暴言を吐かれても抱きしめ返した々の値段が、兄にとっては万円だった。
の芯が急激にえていくのをじた。 りすら湧いてこなかった。 あまりの理尽と侮蔑に、のは定の限界を超えると、ただ凍りつくのだと初めてった。
私は万円の札にはを触れず、協議にも印鑑を押さなかった。 ただ、ちがって、自分の部から着替えを着だけボストンバッグに詰め、実の玄関をた。 ろで、義姉の「ちょっと、印鑑は!」という切り声と、兄の「放っておけ、どうせく宛てなんてないんだから」という嘲笑が聞こえた。
玄関をた瞬の、の夕暮れのたい空気の匂いを、私は忘れないとう。
く宛てのない私は、所にむ代からの友、織のマンションに転がり込んだ。 リビングのソファで、コンビニの温かい緑茶を両で握りしめたまま、私は終が過ぎるまで震えていた。
「……信じられない」
話を聞き終えた織は、キッチンカウンターにマグカップを叩きつけるように置いた。
「あんたが養子? いや、百歩譲ってそれが事実だったとしても、なんで初のに追いすのよ。
のがないの? その兄貴」