"境界の桜庭茶房 ~現代飯と国宝で、どん底から人生やり直します~" 第9話
「より殿……しかし、相は数千、数万の民だぞ。軒の茶で賄える規模ではない」 「見殺しになんてできません。私がなんとかします。だから、しだけ待ってください」
よりは厨の勝を抜け、現代の世界へと駆け戻った。 元の資を握りしめ、隣のドラッグストアや薬局を片っ端から回った。解鎮痛剤、総冒薬、咳止めシロップ、織布マスク、消毒液。棚にある庫をすべて買い占め、急ぎ茶の裏へと運び込む。 さらに、錠剤のみ方や分の摂り方、マスクの装着法を分かりやすい絵と言葉でにき留めた。
「川さん、これを持ってって!」 駆けつけた稲葉川の背嚢に、薬の箱と説を詰め込む。 「回につき粒、湯でませて。このにいた通りに仕分けて配れば、必ずはがるから!」 「恩に着るぜ、よりさん! 野郎ども、全速力で平へるぞ!」
川率いる騎馬隊が、濘のを疾のごとく駆け抜けていった。
の被災、平。 たいが吹き込むあばらので、鳥従は息も絶え絶えのたちを介抱していた。物資は尽き、を取る薪すらない。自らも微を帯びた体を引きずりながら、従は唇を噛み締めていた。
「鳥殿! 薬が届きましたぞ!」
扉を蹴破るようにしてび込んできた川が、とりどりの箱を広げた。
広告
たちは、見たこともない奇妙な丸薬や糖錠をにして、信の目を向けた。
「こんなさな粒で、ががるもんか……」 「の毒薬じゃねえのか? 役が俺たちをく片付けるために……」
の男が、配られた薬を面に投げ捨てた。 だがその、数から識を失いかけていた老が、震えるで薬をとともにみした。半も経たぬうちに、老の荒い呼吸が静まり、額にじっとりと汗が浮きた。
「……ね、が引いていく。体が、痛まない……」
奇跡を目の当たりにしたたちが、先にと川の元へ群がった。 よりが記した指示に従い、症者から順に薬が配られていく。翌朝には、ちがることすらできなかった数百の民が、次々と平を取り戻していた。
だが、が差せば、そのに群がる卑劣な輩が現れる。 混乱の最、配用の荷物から、子ども用の甘い桃をした解シロップが本、何者かによって持ちられていた。
数、のれにある『霞堂』という敷のに、すがるような目をした群衆が押し寄せていた。 につのは、豪奢なにを包んだ男――持教。自らを『の賢者』と名乗る男だった。
「控えよ! の賢者様が神薬を授けてくださるのは、に名のみ! 欲しくば、誠ある捨を捧げよ!」
持は、盗みしたシロップをめ、額なや名の娘を差しした者にだけ、ほんの数滴を分け与えていた。
広告
初期に薬を得た者が劇に回復したことで、噂は瞬くに広がり、持は『の巫女の代弁者』として崇められていたのだ。
だが、現代の医薬品にも限りがある。シロップが底をつくと、持の欲は狂気へと変わった。 「薬が切れたなら、似たのを混ぜればよい。どうせ愚民どもには分かりはすまい」 持は着した毒な鉱の末や眠り薬を調し、偽の神薬として配り始めた。結果、それをにした患者たちが、激しい腹痛を起こして次々と審を遂げたのである。
「賢者様をせ! 夫が、薬をんだその夜に息を引き取ったんだ!」 「私の息子もだ! 殺しめ!」
騒然とする霞堂のに、突如として甲冑の擦れう徹な音が響き渡った。 「をあけよ! 榊原将軍のお通りである!」
馬をりた守が、氷のような差しで持を射抜いた。 「持教。神薬を騙り、民を毒殺した廉で、貴様を捕縛する」
持は嘲るような笑いを浮かべ、祭壇の背を指差した。 「無礼な! 私はの巫女様の託宣を受け、民を救う賢者ぞ! 祭祀を邪魔すれば、神罰がりこの町は災禍に呑まれるぞ!」
堂内の祭壇には、幅の美しい女性の肖像画が掲げられていた。 その絵を見た守の部たちが、わず声を漏らした。 「あ、あの絵……よりさんに瓜つではないか……!?」
よりの顔を無断で『の巫女』に仕てげ、民を欺く具にしていたのだ。