"消えた新郎と「探すな」と言った花嫁" 第14話
倉田さんが絶句してち尽くした。
「……はい? 懇親会、ですか?」
「料理も酒も用してある。メインバンクの役員も、の取引先もすでに席に着き始めているんだ。今さら止にして相沢の板にを塗れるか。費用は全額私が持つ。……美紀」
父は私を振り返り、顎をしゃくった。
「おもドレスを着ろ。壇で、郎を気遣う健気な嫁として言挨拶をし、をげろ。そうすれば世は私を『災難に見われながらも誠実に対応した派な父親』として見る。災いを転じて福となすんだ。分かったな」
の奥で、キーンと甲い音が鳴り響いた。
悠が暗ので血を流し、何も息を潜めていたその元凶が。 悠の命を買い叩き、娘のを塞ごうとした張本が。 まだ、自分の「世体」のための台を演じさせようとしている。
吐き気がするほど滑稽で、れだった。
「真帆ちゃん」
私は泣きじゃくる真帆ちゃんの肩を抱き起こした。
「病院へってあげて。悠のそばにいてあげて」
「お姉さんは……? 緒に来ないの?」
「からく。……私には、ここで終わらせなきゃいけないことがあるから」
真帆ちゃんは私の目を見て、何かに気づいたようにさく頷いた。 駆け寄ってきたホテルのスタッフに付き添われ、真帆ちゃんがを駆けがっていく。
父はそうに舌打ちをした。
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「美紀、く階へ戻れ。メイクを急がせろ」
私は父を瞥もせず、でエレベーターに乗り込んだ。
階のブライダルサロン。 部の央には、スポットライトを浴びたあの純のウェディングドレスが待っていた。 百万円の、父親のトロフィー。
メイク担当の女性が、困惑した顔でブラシをにち尽くしている。
「相沢様……お着替えを?」
「いいえ」
私はドレッサーの引きしをけた。 そこに入っていたのは、今朝ホテルに来るに着ていた、私自のだった。 自分が稼いだ料で買った、チャコールグレーのシンプルなパンツスーツ。 きやすくて、余計な飾り気のない、私が仕事をするの。
私は躊躇することなく、元のいサテンのパンプスを脱ぎ捨てた。 鏡台のの真珠のティアラを乱暴にす。 ピンが髪を引っ張り、痛みがったけれど、構わなかった。
苦しいレースのついたバスローブを脱ぎ、自分のシャツに腕を通す。 ボタンを番まで留め、ジャケットを羽織る。 黒い革のローファーにを滑り込ませ、鏡のにった。
そこには、父親の形ではない、私自がっていた。
テーブルのに置かれていた、悠のスマートフォンと財布を掴み、内ポケットにくしまい込んだ。
午分。
階の宴会『鳳凰の』のには、すでに異様な気がち込めていた。
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屏がてられ、入りには父の会社の社員たちがずらりと並んでをげている。
扉の隙から覗く会内には、百を超える参列者が円卓を埋め尽くしていた。 ダークスーツにを包んだ財界の鎮たち。 留袖を着た親戚たち。 誰もが、これから始まる「華やかなセレモニー」を疑っていなかった。
壇には、マイクスタンドが本。 司会者が父と何事かを打ちし、神妙な顔で頷いている。 父は壇の脇にち、元のメモを確認しながら、満そうに胸を張っていた。
あと分で、父の「筋き」がアナウンスされる。 『郎の急病による延期』という、美しくえられた嘘が。
い両きの扉を、私は素で押しけた。
ギィ、となヒンジが鳴る。
会内の線が斉に入りへと注がれた。 誰もが、純のドレスにを包んだ嫁の登を待っていた。 だが、そこに現れたのは、グレーのスーツを着て、髪をつに束ねた女だった。
ざわめきが、波のように広がっていく。
「……あれは、婦か?」 「なぜスーツを着ているんだ?」 「ドレスはどうした?」
父が凍りついた顔で私を凝した。 目を血らせ、壇のから狂ったように振りを送ってくる。 『戻れ』と。 『余計な真似をするな』と。
私は歩みを止めなかった。
真の絨毯のを、まっすぐに歩いた。 カツ、カツと、ローファーのい靴音が、静まり返っていく会に鋭く響く。
両脇に座る親戚たちが息を呑む顔が見えた。