"消えた新郎と「探すな」と言った花嫁" 第10話
「悠!?」
私はわずテーブルにを乗りし、画面に向かって叫んだ。
「悠、どこにいるの!? 無事なの!?」
返事はなかった。
代わりに聞こえてきたのは、の奥を掻きむしるような、く湿った音だった。
――ヒュー、ヒュー……。
喉の奥に何かが詰まっているような、浅く、規則な呼吸音。 何かがを擦る、ガサリという鈍い摩擦音。
『……あ……』
掠れた、途切れ途切れの声。 違いなく、悠の声だった。 けれど、それは私がっている彼の声ではなかった。 識の底から無理やり絞りしたような、苦悶に満ちた呻き。
『……み……き……』
「悠! 悠、聞こえるの!? 今どこにいるの!?」
私の叫び声となるように、受話の向こうから、属がいにぶつかる乾いた音が響いた。
『……にげ……ろ……びでお……を……』
ツーツーツー。
無質な切断音が、部のにたく響き渡った。
通話、わずか秒。
「……悠?」
画面はすでに通話終の表示に戻り、ただ刻の【7:05】を淡々と刻んでいた。
膝から力が抜け、私はそのにへたり込みそうになった。 すり代わりに掴んだガラステーブルが、ガタガタと音をてて震える。 震えているのはテーブルではなく、私の両腕だった。
あの音は何? あの呼吸は、何なの? まるで、息ができなくて、血を吐きながら倒れているような――。
顔をげると、父が直したまま、ののスマートフォンを凝していた。
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さっきまでの傲な赤みは完全に引き、顔面が気に染まっている。 代で会社を築きげた百戦錬磨の男の仮面が、音をてて崩れ落ちていた。
「……今の、声は」
父の唇が、乾いた音をてて微かにいた。
「嘘よ」
私はを蹴るようにしてちがり、父の胸倉を掴みそうな勢いで詰め寄った。
「悠は事故に遭ってる! どこかで倒れてるのよ! まだ分からないの!? あなたのくだらない見栄とビデオのせいで、悠がにかけてるのよ!」
「滅相もないことを言うな!」
父は狼狽を隠すように私のを払いのけたが、その声にはもう先刻の威厳は微も残っていなかった。
その、閉ざされていたドアがノックもなく勢いよくかれた。
入ってきたのは、品川警察署の活全課と刑事課の捜査員、計名だった。 そのろから、泣き腫らした目の真帆ちゃんと、青ざめた倉田さんが崩れ込んでくる。
「警察です。方者届の件で、至急確認したいことが」
先につ代半ばの、鋭い目つきをした刑事が帳を掲げた。 その線が、部のの異様な緊迫を瞬に察する。
「今の着信です!」
真帆ちゃんが叫んだ。
「兄ちゃんの番号から、お父さんの携帯にかかってきたんです! 兄ちゃん、苦しそうに何か言ってて……!」
刑事の表が変した。 「端末を見せていただけますか」
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父は無言のまま、促されるようにスマホを刑事に差しした。 警部補とおぼしき捜査員が素く通話履歴を確認し、無線を元に当てる。
「品川本部に緊急照会。対象話番号の基局報、直の波トラフィックを至急追跡しろ。発信刻は分、通話秒数秒だ」
内を、張り詰めた緊張が支配する。 捜査員のが、メモを取りながら私に問うた。
「瀬さんの本端末は控に置かれたままですね? となると、発信元の端末は別にある。スマートウォッチの単体通信か、あるいはクラウド共された別端末からの緊急発信の能性があります」
スマートウォッチ。
のに、が落ちたような衝撃がった。
悠は、いつも腕に黒いアップルウォッチをつけていた。 セルラー契約の、単体で通話ができるモデル。 昨夜、私が彼の控をた、彼の首には確かにその計が巻かれていた。
悠は、スマホを持たずに部をたのではない。 首に計だけを巻き、つでどこかへ向かったのだ。
「刑事さん、防犯カメラです!」
倉田さんがタブレットを胸に抱えたまま、震える声で叫んだ。
「の業務用通用と、搬入のカメラに、昨夜の瀬様の姿が映っていました!」
私たちは全員、ホテルの階にある防災センターへと駆けりた。
壁面に並ぶ巨なモニター。 警備員がキーボードを叩き、昨夜の【23:37】のタイムスタンプを表示させる。
画面は、ホテルの、従業員用の階段の踊りだった。