"消えた新郎と「探すな」と言った花嫁" 第2話
画面のに表示されているタイムスタンプは、昨夜の【22:58】を示していた。
廊の角から、私自が歩いてくるのが映っている。 普段着のニットにパンツ姿。 私は躊躇することなく、郎控――今私たちがっているこの部のドアノブにをかけ、へと入っていった。
そして、分。 タイムスタンプは【23:08】。
ドアがき、私ひとりが部からてきた。 そのには、悠のダークグレーのスーツジャケットが固く握りしめられていた。
画面のの私は、に周囲を警戒するように顔を伏せ、自分の控へと消えていく。
「……これ、何?」
真帆ちゃんの声が、く震えていた。
「昨夜の。お姉さん、兄ちゃんの部に入って、分にてきてる。兄ちゃんのジャケットを持って。……喧嘩したの? 兄ちゃんを追いしたの?」
「違う」
「じゃあ何よ! 兄ちゃんはどこへったの!? この、兄ちゃんが部からる姿は映ってないの!?」
警備責任者が、いをいた。
「それが……映像をさらにめますと、解な記録が残っておりまして」
警備責任者がタブレットの画面をスクロールし、フロントの内線受話記録のログを表示させた。
刻は【23:23】。
私が部をてから、分のことだ。
「階の郎控の内線から、フロントへ直接お話がございました。発信者は、違いなく瀬悠様ご本でした」
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倉田さんが、唾をみ込みながら言葉を継ぐ。
「瀬様は、非常に切迫した様子でこうおっしゃいました。『の披宴の途で流す予定の、あの映像を絶対にキャンセルしてくれ。映のマスターデータを差し替えるんじゃない、映そのものを取りやめてほしい。……特に、彼女の父親には絶対にられないようにしてくれ』と」
の芯を、たい針で刺されたような覚がった。
真帆ちゃんが、信じられないものを見る目で私を睨みつける。
「映像……? 兄ちゃん、何を隠そうとしてたの? お姉さんのお父さんにられたくない映像って、体何のこと!?」
部の線が、私ひとりに突き刺さる。 ホテルのスタッフたちの疑惑の目。 妹の、憎悪に満ちた瞳。
誰もが、私が郎を精神に追い詰め、結婚夜に破談に持ち込んで逃げさせたのだとっている。 あるいは、何か恐ろしい犯罪に巻き込んだ共犯者だと。
胃の底から、苦いものがせりがってくる。
――違う。 そうじゃない。
私は両をく握りしめ、爪がのひらにくい込む覚を確かめながら、ゆっくりとをいた。
「……悠は、逃げしたんじゃないの」
「は? じゃあ何なのよ!」
「私たち、最初から決めてたの。昨の夜、この部でで決めたのよ」
息を吸い込む。 臓が肋骨を激しく叩いていた。
「今の結婚式は、挙げないって」
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部のが、を打ったように静まり返った。
倉田さんの持っていたバインダーから、が枚、音をててに滑り落ちた。 真帆ちゃんはを半きにしたまま、固まっている。
「……は? 何言ってるの……? 式をやめる? 今よ? あと数で、親戚も、父さんの会社のたちも、みんな来るのよ!?」
「だから、やめるの」
私は言った。言葉にするたびに、昨夜の悠の顔が鮮に蘇ってくる。
「昨の夜、私がこの部に来たのは、悠と別れるためじゃない。でここから逃げす順を確認するためだったの」
半から、この結婚式は私のから完全に奪われていた。
最初は、親しい友だけを招いた、さなレストランでのパーティーにするはずだった。 私が勤めるインテリアデザイン事務所の仲と、悠の設計事務所の同僚、そしてお互いの族だけ。 の丈にった、温かい式にしようとで作りの招待状まで用していた。
それをすべて踏み潰したのは、私の父、相沢正彦だった。
父は、ホテルや旅館向けのアメニティやリネンを扱う堅卸売会社を代で築きげただ。 私が歳のに母がてって以来、父は男ひとつで私を育てげた。 そのこと自体には謝している。 けれど、父にとって私は「する娘」であると同に、「自分のの成功を証するための最も価なトロフィー」
だった。
『相沢の娘が、レストランで会費制のパーティーだと? 世体が許さん』