"消えた新郎と「探すな」と言った花嫁" 第1話
「瀬様と、昨夜から連絡が取れなくなっております」
ホテルのブライダル統括・倉田耶さんの引きつった声が、受話器の向こうからの鼓膜を震わせた。
午分。 京・品川にある級ホテルの階、スイートルーム。
私の目のには、スポットライトを浴びるようにスタンドに掛けられた、純のウェディングドレスがある。 シルクサテンの裾は寸分の狂いもなく広げられ、胸元には父親が指定した最級のパールが縫い付けられている。 総額、百万円の披宴。 招待客、百名。
「……相沢様? 聞いていらっしゃいますか。瀬様が、お部にいらっしゃらないのです」
指先が、氷に浸したようにたくなっていく。 喉の奥が張り付き、呼吸がうまく通らない。
私は受話器をく握りしめ、自分でも驚くほど乾いた声で答えた。
「探さないでください」
「……はい?」
「探さないでください、倉田さん。警備員もかさないで。参列者にも、誰にも、悠がいなくなったことは絶対に言わないでください」
話の向こうで、倉田さんが息を呑む音が聞こえた。 無理もない。 あと半には、親族の顔わせが始まる。 郎がホテルから忽然と姿を消したというのに、嫁が「探すな」と命じているのだ。 がおかしくなったとわれても仕方がない。
「相沢様、ですが式のが……メイクの入りは半でございます。
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警察への相談も野に入れなければ」
「警察は、絶対に呼ばないで」
私は語気をめて遮った。
「来ないんです。悠は……もうここには来ませんから」
受話器を置くと、部のに苦しい静寂が落ちてきた。 エアコンの微かな送音だけが、鳴りのように響いている。
私は震えるでベッドをり、隣の郎控へと向かった。
ドアをけると、そこには昨夜の匂いがまだ微かに残っていた。 シダーウッドと柑橘系の、悠がいつもつけているコロンのり。
鏡台のには、悠の私物が几帳面に並べられていた。 充器に繋がれたままのスマートフォン。 黒いベルベットのケースに収まった、つのプラチナリング。 クリーニングのタグがついたままの、仕ての良いタキシード用のシャツ。
何もかもが、然とそこに「置かれて」いた。 突発に逃げしたの痕跡ではない。 まるで、最初から今というを迎える気がなかったかのように。
「……お姉さん!」
鋭い音とともに、部の扉が乱暴にけ放たれた。
っていたのは、悠の妹の真帆ちゃんだった。 母親の留袖を預けたきな装バッグを肩にかけ、息を切らしている。 まだ歳の彼女の顔は、りと困惑で朱に染まっていた。
「どういうことですか、これ! フロントで倉田さんに呼び止められて……兄ちゃんがいないって、どういうこと!?」
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真帆ちゃんは部のを見回し、ドレッサーのに置かれた悠のスマホを見つけると、血相を変えてそれにびついた。
「スマホも置いてるじゃない! 財布は? のキーは? ねえ、なんで警察を呼ばないの!? 今結婚する男が消えたのに、なんでお姉さんはそんなに落ち着いてるの!?」
真帆ちゃんの爪が、私のの腕にい込む。 痛かった。けれど、その痛みがむしろ、麻痺しかけていた私のを酷に覚させていく。
「落ち着いてなんかないよ、真帆ちゃん」
「嘘ばっかり! 顔、ちっとも焦ってない! 兄ちゃんに何かあったらどうするの!? まさか……お姉さんが何かしたの?」
「私が?」
「昨、兄ちゃん言ってたの。『今夜、美紀とちゃんと話す』って。すごくい詰めた顔をしてた! ので何があったの!? ねえ!」
真帆ちゃんの切り声が、静かなフロアに響き渡る。 その、廊の向こうからにづいてくるがあった。
ブライダル統括の倉田さんと、ホテルの警備責任者だった。 倉田さんのには、業務用のタブレット端末が握られている。 その青ざめた表を見た瞬、胸の奥で何かが嫌な音をてて軋んだ。
「相沢様、瀬様……失礼いたします。昨夜の階フロアの監カメラ映像を、確認いたしました」
倉田さんは刻みに震える指で、タブレットの画面を私たちに向けた。
黒の、粒子の粗い防犯カメラの映像。