"一日五百円で飼われた妻" 第19話
チルドの棚の央に、こんがりと焼き目のついた、美しそうなカスタードプリンが並んでいた。
『焦がしカラメルの濃密焼きプリン』 値札には、こうかれていた。
【本体価格:198円(税込:218円)】
百円。
その数字を見た瞬、私の脳の奥くで、染み付いた考の歯が、勝にカチリと音をてて噛みってしまった。
『今の残りはいくらだっけ』 『百円から、朝のコーヒー代と、昼のパン代を引いて……』 『あと、何円残っている……?』
私の伸ばしかけたが、空でピタリと止まった。 指先が微かに張り、息が喉に詰まる。
反射だった。 、毎晩レシートを突きつけられ、百円玉と百円玉の檻のできてきた私の体が、いまだにあの男の「しつけ」の霊に怯えていたのだ。
私はち尽くし、ショーケースのの黄いプリンを見つめていた。 コンビニのるい蛍灯が、私の荒れた指先を照らしている。
私は度、を引っ込めた。 買わなくても、きていける。 贅沢は、敵だ。 ルールを守らなければ、られる。
そんな声が、の奥で囁いた。
……けれど。
次の瞬、私はふっと、さく息を吐いて笑った。
もう、あの皿はない。 あのエクセルの覧表も、ない。 今夜、私のレシートをチェックするは、この世界のどこにもいないのだ。
百円。 これは、私が今、物流センターで働き、自分ので稼ぎした、正当な対価の部だ。
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誰の許もらない。 誰への言い訳もらない。
私は再びを伸ばした。 迷いなく、そのプリンをに取り、買い物カゴに入れた。 ひんやりとしたプラスチックの容器の触が、のひらによかった。
レジで支払いを済ませ、さなスプーンを本もらってをる。 夜のを、私はしだけ胸を張って歩いた。
アパートに帰り、さな折りたたみ式のローテーブルのに、買ってきたプリンを置いた。 スプーンを差し込むと、ほろ苦いカラメルのりがふわりと広がった。 、に運ぶ。 濃な卵の甘みと、し焦げたカラメルの苦が、舌のでゆっくりと溶けていった。
涙はなかった。 ただ、胸の奥のたく凍りついていた所が、じんわりと温かいお湯で満たされていくような気がした。
これだ。 私が取り戻したかったのは、億円の資産でも、誰かを見返すための派な復讐でもなかった。
「今、プリンをべるかどうか」を、自分ひとりの志で決めること。 その、ちっぽけで、何気ない、かけがえのない自由だったのだ。
プリンをべ終え、の洗濯物をまとめようと、クローゼットの奥から結婚代に使っていた古い皮のトートバッグを引っ張りしただった。
バッグの底を裏返すと、内ポケットのほつれた隙から、何かがのに転がり落ちた。
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チャリン。
質な、澄んだ属音。 フローリングのをくるくると回り、私の元で止まったのは、枚のの貨だった。
百円玉だった。
あのをる、いつかの朝、私が使わずにバッグの奥底に紛れ込ませていた、かつての「自由なお」。
私はに膝をつき、その貨を拾いげた。 のひらに乗せると、属のたさが肌に伝わってくる。
、私を縛り付け、私の自尊を測り、私を無力なへと貶め続けてきた、さなの鎖。
捨ててやろうか、とった。 窓をけて、夜ののに投げ捨ててしまえば、どれほど清々するだろう。
けれど、私はそうしなかった。 貨の表面に刻まれた、桐の葉のレリーフを指先でそっと撫でる。 この貨に罪はない。 罪があったのは、このさな属に、のを支配する歪んだ力を纏わせようとした、あの男の愚かさだけだ。
私はちがり、サンダルを突っかけて、部のにた。
階段をり、アパートの敷の角にっている、青いを放つ自販売のにった。 コイン投入に、その百円玉を滑り込ませる。
カラン、コロン。 貨が落ちる音がして、赤いデジタル表示に『500』という数字が点灯した。
私は迷わず、番段にあった、温かい緑茶のボタンを押した。 ガコン、とい音をてて、缶が取りしに落ちてくる。
お釣りレバーを引くと、ガチャンと音をてて、百円玉が枚と、円玉、円玉が何枚か吐きされた。