みかん小説
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"一日五百円で飼われた妻" 第17話

音はまっすぐに父親の目を見据えた。 その瞳には、かつて父親を信じていた女の無邪気さは、欠片も残っていなかった。

「お父さんはいつも、お母さんを守るためだって言ってた。お母さんはおの計算ができないから、放っておくと危険だから、私が伝わなきゃいけないんだって。……私、お父さんを信じてたから、懸命お母さんのレシートを撮って送ってた。でもね、違った」

音の指先が、画面をスクロールした。

「お父さんは、お母さんを守りたかったんじゃない。お父さんは、私を使って、お母さんを『何もできない役たず』に仕てげたかっただけでしょ? 私にも、お母さんをバカにして、見す側になってほしかったんでしょ?」

「ち、違う! 音、それは誤解だ!」 彦は慌ててを乗りし、両を広げた。額にじっとりとたい汗が滲みている。

「お父さんは本当に、お母さんのことをって……! 現にお母さんは、昔から衝買いがくて、計の管理ができなかったんだ! だから僕がルールを作って――」

「嘘ばっかり」

音は、酷なまでに静かにその言葉を切り捨てた。

「お母さんの昔の同僚のに、先週、話を聞いたよ。お母さんは結婚、度も借なんてしたことないし、真面目に貯して、会社の経理の伝いまでしてたって。……お父さんが学の本先に吹き込んだ『トラウマ』も『発作』も、全部、全部お父さんの作り話だったんじゃない!」

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個の空気が、完全に凍りついた。 庭の鹿威しが、コーンと虚しい音をてて響く。

彦のが、パクパクと力なく閉した。 彼がかけて丹に積みげてきた、誰にも疑われるはずのなかった「完璧な虚構」が、でもない、彼が番懐けていたはずの実の娘のによって、撃で叩き壊されていた。

音は、テーブルののさな属の鍵を指先で弾いた。 カラン、と乾いた音がして、鍵が彦の指先へと転がっていく。

「賃万千円の、造ボロアパート。当面の活費万。……お父さん、毎朝玄関で、皿に百円玉を枚置くとき、お母さんも自分と同じ、のだってったこと、度でもあった?」

その言だった。

鋭利な氷の刃が、彦の胸のど真んを貫いたようだった。 彼の誇り、彼の自尊、彼が何よりも切にしてきた「良き父親、良き夫」という美しい物語のすべてが、々に砕け散った瞬だった。

彦の顔が、急速にりで赤黒く染まっていった。 彼はちがり、テーブルを激しく両で叩いた。

「誰だ!!」

静まり返ったに、彼の声が号となって響き渡った。 所でも、職でも、度たりとも見せたことのない、剥きしの醜い形相だった。

「誰がおたちにそんな恵をつけた!? ネットか!? ネットのフェミニストか!? それともあの区役所の相談員か!? 職の誰かに吹き込まれたのか!?」

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彼は取り乱し、目を血らせて私を指差した。

「由美、おだな!? おが裏で音を唆したんだろう! 恩らずめ! 誰のおかげでこの、をしのいで、こんな贅沢な暮らしができたとってるんだ! 俺がでをすすって稼いできたで、飯をわせてもらっておきながら……! 俺がいなければ、おなんて今頃、野垂れんでたんだぞ!!」

彼は自らの正当性を必に取り戻そうと、狂ったように言葉を吐き散らし続けた。 自分は悪くない。 自分は被害者だ。 おたちが愚かで、恩らずで、狂っているのだと。

彼は、私が泣いてすがるのを待っていたのだ。 あるいは、激して言い返し、沼の罵りいになることを望んでいたのだ。 そうすれば、彼は再び「話の通じない狂った妻」というポジションを私に押し付け、自分を守ることができるから。

、私はいつもそうだった。 彼に理尽なルールを突きつけられるたび、必に自分の潔を証しようとしてきた。 「私は無駄遣いしていません」「私はちゃんと考えています」「私を信じてください」と。 そしてそのたびに、彼の酷な「正論」のに論破され、自尊を削り取られてきたのだ。

けれど。

私は、をかなかった。 言も、言い返さなかった。 涙も流さず、眉毛つかさず、ただ静かに、に落ちた自分のバッグから、にるつのものを取りした。

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