みかん小説
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"一日五百円で飼われた妻" 第16話

「佐藤さん、ご卒業おめでとうございます。いつもPTAや事でお世話になって」 「いえいえ、娘が無事に育ってくれたのも、先方や皆様のおかげです」

彦は完璧な笑顔でをげ、謙虚で派な父親を演じ切っていた。 その隣で、私はなスーツを着て、ただ静かに微笑んでっていた。 これが、彼がの世界に見せている「佐藤彦」という男の完成形だった。

正午過ぎ。 私たちは、彦が事に予約していた駅くの落ち着いた料理へと向かった。 朱の敷居を跨ぎ、案内されたのは、庭の見える静かな個だった。

テーブルのには、卒業祝いの華やかな松堂弁当が並べられていた。 彩り豊かなちらし寿司、の菜のぷら、美しく飾り切りされた鯛の刺。 彦は座に座り、満そうにビールを煽ると、自らの革製のアタッシュケースを膝のに引きげた。

「さて」

彦は居まいを正し、咳払いをつした。 彼の顔には、自らが主役を務めるのれ台につような、厳粛なが宿っていた。

「音、まずは無事にを卒業して、第志望の学に学が決まったこと、本当におめでとう。お父さんは、おを誇りにうよ」

「……ありがとう、お父さん」 音は箸を置いたまま、静かに答えた。

彦は満そうに頷くと、アタッシュケースから、茶封筒と、あの緑の婚届、そしてさな属の鍵を本、テーブルの央へと滑らせた。

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「そして、今という良きに、がの将来について、切なおらせがある」

彦は私の方を向き、劇の役者のように愁を帯びた声をした。

「音がへの歩を踏みすのと同に、僕たち夫婦も、それぞれのを歩むことになった。由美、ここに君のしいまいの鍵と、当面の活費万円がある。……音、驚くかもしれないが、これはお父さんとお母さんが、いをかけて話しい、お母さんの将来の自を願って決めた、向きな結論なんだ」

彦は音に向かって、慈に満ちた父親の微笑みを向けた。

「お母さんはね、昔からしが繊細で、世の荒波のできるのが苦なんだ。だからお父さんが、お母さんが無理なく暮らせる所を、責任を持って用した。音はお父さんと緒に、あのマンションでして学活を送りなさい。お母さんのことは、僕がながら見守っていくからね」

完璧なスピーチだった。 すべてを自分の柄にし、妻を無力な被保護者に仕てげ、娘ので自分を「最まで責任を果たした聖」として完結させる、完璧な幕引き。

彦は万のいを込めて、私に婚届とボールペンを差しした。

「さあ、由美。ここにサインをしなさい。僕たちの、しいだ」

私はかなかった。 ペンにを伸ばすこともせず、ただ静かに彦の顔を見つめていた。

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彦が怪訝そうに眉をひそめかけた、そのだった。

カチャリ。

い沈黙を破ったのは、音がテーブルのに置いた、塗り箸の乾いた音だった。

「音?」 彦が首を傾げた。

音は、父親の顔を見なかった。 彼女は制のブレザーのポケットから、自分のスマートフォンを取りすと、テーブルの真ん、あの婚届の真に、トンと置いた。

画面には、何枚ものスクリーンショットが、系列順に並べられたフォルダがかれていた。

「お父さん」

音の声は、く、驚くほど澄んでいた。

「これ、何?」

彦は目を瞬かせ、スマートフォンの画面に線を落とした。 その瞬、彼の端正な顔ちから、サーッと血の気が引いていくのが分かった。

画面に映しされていたのは、彼自が音に送り続けていた、無数のLINEのメッセージだった。

『音、お母さんが今買ったもののレシート、写真を撮って送ってね』 『お母さんの財布にいくら入っているか、見ておいてくれ』 『お母さんは昔から騙されやすいから、音が監してあげないと駄目なんだ』 『お母さんには内緒で、今のお遣いを千円増やしておくよ』

付はから、先週に至るまで、びっしりと続いていた。

「な……音、お、これは……」 彦の声が、裏返ったように微かにずった。

「私ね、ずっと気持ち悪かったの」

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