"一日五百円で飼われた妻" 第15話
彦はその封筒を受け取るたび、満そうに目を細め、私にこう言ったものだ。
「偉いよ、由美。自分の分をわきまえて、計にすべてを委ねる。それが本来の妻のあるべき姿だ。君もしずつ、成熟してきたね」
彼は私のを撫で、嫌よくをいながら自へと戻っていった。 彼は微も疑っていなかった。 自分が完璧に調教し、無力化し、綱を握り続けている妻が、まさか自分の元で静かに脱のための梯子を組みげているなどとは。
の半ば、夕の片付けを終えたリビングで、彦は珍しく穏やかな顔で私を呼び止めた。 彼のには、すでに署名と捺印が済まされた緑の用――婚届と、あの造アパート『コーポ樺』の賃貸契約の控えが、几帳面に並べられていた。
「由美、座りなさい」
彦は温かいほうじ茶をすすり、く息を吐いた。 その表には、の責を果たし終えたかのような、清々しい達成が漂っていた。
「音の卒業式は、来週の曜だ。……君にも々、勘づいていたところはあるだろう。僕たちの婚姻関係は、あの子の卒業をもって、円満に解消することにしたい」
私は驚いたふりをして、微かに唇を震わせ、俯いてみせた。
「……婚、するの……?」
「お互いのためだよ」 彦は諭すように、柔らかくを差し伸べて私の膝のに置いた。
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「君を責めるつもりはないんだ。でもね、緒に暮らしてきて、君の銭覚や社会適応力のさは、どうしても僕のき方とはわなかった。音が巣つ今、僕たちはお互いに自由になるべきだ。……しなさい。僕は君をに迷わせるような真似はしない」
彼は机のの類を、指先で優しくトントンと叩いた。
「このアパートの初期費用、敷も礼も、僕が全額支払っておいた。具も古の綺麗なものを配してある。それと、活準備として、現で万円を包んであげよう。職歴のない代の女性が、これだけのろ盾をもらって暮らしを始められるなんて、普通はあり得ないことだよ。僕としては、夫として仁至義尽を尽くしたつもりだ」
仁至義尽。 彼は本当に、自分のことを世界で最も慈く、寛なだと信じ切っていた。 、私から働く会を奪い、との繋がりを断ち切り、界を恐れるように洗脳し続けておきながら、最は粗ゴミを所定の集積所に運ぶようなつきで、私を排除しようとしている。
「君さえ納得してくれるなら、卒業式の翌に役所へって、すべてを終わらせよう。荷物の搬も、僕が配した軽トラックが伝ってくれる。……僕に、謝してほしいくらいだよ」
私は顔をげた。
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胸の奥で煮えたぎるたいりを、何もの仮面のに押し殺し、私は静かに微笑んだ。
「……ええ。ありがとう、あなた。何から何まで、私のために用してくださって」
「分かってくれたかい!」 彦は底堵したように、破顔した。
「やっぱり君は、素直なところが美点だよ。音にも、僕からうまく話しておくからね。『お母さんはしいを見つけたんだ』とね」
私はくをげた。 界の端で、廊の暗がりからこちらをじっと見つめている音の気配をじながら。
彦はらなかった。 私が物流センターの親会社から、採用の常勤派遣社員としての雇用契約をすでに受け取っていることを。 そして、彼が用したあの湿っぽい造アパートの鍵など受け取らず、職のくにある、畳のさな、しかし陽当たりのいい鉄筋コンクリートの部を、私自の名義と貯で契約し終えていることを。
百。 その砂計の最の砂が落ちる瞬を、私は静かに待っていた。
*
。 曜の朝は、ひとつないだった。 まだのたさが残るのに、柔らかい差しが注いでいる。
音の通う私の講堂で、厳かに卒業式が執りわれた。 壇で卒業証を受け取る音の背筋は、真っ直ぐに伸びていた。 保護者席の最列で、彦は仕ての良いスーツにを包み、ハンカチで目元を拭いながら、誰よりも誇らしげな父親の顔をして拍を送っていた。
式の、庭で何もの保護者が彦に声をかけてきた。