"一日五百円で飼われた妻" 第7話
彼はレシートを見つめたまま、秒、何も言わなかった。 計の秒針の音だけが、やけにきくコチ、コチと響く。
「……由美」
彦は静かに顔をげ、鏡のブリッジを指で押しげた。 声ではない。むしろ、ひどくく、底れぬ失望を湛えた声だった。
「これは、何だい?」
「音の、学の教材よ。の朝の授業でどうしても必だって言うから……事にあなたに相談するがなくて、費からて替えたの。今週の買いし、野菜と乾物で夫して、ちゃんと予算内に収めるから……」
彦はく、いため息をついた。 子の背もたれに体を預け、両で顔を覆う。 まるで、何度言い聞かせても万引きを繰り返すが子をにした、れな父親のような仕だった。
「……ほらね、由美」
彼は顔からをし、底傷ついたような、しげな瞳で私を見つめた。
「だから僕は、君におを任せられないんだよ」
「……え?」
「君は『千百円くらい』とっているんだろう? でもね、問題は額のじゃないんだ。君が『僕の許を得ずに、勝に使途を変更した』という、その規範識の欠如なんだよ」
「でも、音のの授業に……」
「音がもって言わなかったのなら、音自がその失敗の責任を負うべきだったんだ。先に謝るなり、友達に見せてもらうなりしてね。それを君が、ルールを破って易に甘やかすから、音の銭覚まで狂ってしまう。
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……君は昔からそうだ。目ののに流されて、物事の優先順位と規律が守れない」
私は唇を噛みしめ、言葉を失った。 正論の形をした暴力だった。反論の余を切許さない、完璧にえられた「徳な説教」。
彦は静かにちがり、リビングの棚から、さな印鑑と専用のノートを取りしてきた。
「由美。君にはまだ、『自分を律する力』がりないようだ。し、僕が君を甘やかしすぎていたのかもしれないね」
彼は私の目をまっすぐに見つめ、残酷なほど穏やかな声で宣告した。
「から、しばらく訓練をしよう」
「……訓練?」
「うん。百円では、君にはまだ自由度が広すぎて、おのみが麻痺してしまうみたいだ。だからからは、百円にする」
臓が、ドクンと嫌な音をてた。
「さ、百円……?」
「百円で、をどうやりくりするか。自分の衝をどうコントロールするか。それを学ぶための、リハビリだよ。君のためをって言っているんだ。分かってくれるね?」
彼の目は笑っていなかった。 拒絶も、異論も、切受け付けないという絶対な支配者の目だった。
私は、ここで反論すれば、あの覧表の「自度」の評価がさらにがり、監がより厳しくなることを直していた。 私は喉元までかかった叫びをみ込み、震える膝ので拳を握りしめた。
「……はい。
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ごめんなさい、私の配慮がりませんでした」
彦は満そうに微笑み、私の肩をポンポンと叩いた。
「分かればいいんだよ。の朝から、始めようね」
*
翌朝。 分。
玄関の皿に落ちたのは、のきな百円玉ではなかった。 カチャ、カチャ、カチャ。 っぽい、回の属音。
皿のには、くすんだ百円玉が、枚だけ並んでいた。
彦は何事もなかったかのように靴を履き、私の額に軽くキスをして勤していった。 私はタタキにち尽くし、その百円を見つめていた。
自販売のペットボトルを本買えば、それで消える額。 これが、歳の私の、の価値だった。
そして、そのの夜。 さらなる獄が待っていた。
彦はきっかりに帰宅した。 そのには、デパで買った級菓子の、きな袋が提げられていた。
「音、由美、おいで。今は音のテストの成績が良かったお祝いに、季節限定のフルーツタルトを買ってきたよ」
リビングのテーブルのにかれたのは、鮮やかなシャインマスカットといちごが惜しみなく盛られた、つのタルトだった。 つ百円以はするはずの、最級のケーキ。 計で千円以が、惜しげもなくそこに並べられていた。
「わあ、美しそう! お父さん、ありがとう!」
音が無邪気に歓声をげる。
彦は嬉しそうに目を細め、タルトを皿に取り分けた。
「たまには族で贅沢をして、気分転換しないとな。