"一日五百円で飼われた妻" 第1話
毎朝、午分になると、玄関でさな陶器の皿が「カチャリ」と質な音をてる。
それは、の結婚活ので、度たりとも狂ったことのないがの図だった。
皿の央に置かれるのは、にる百円玉がちょうど枚。 夫の彦は、磨きげられた革靴のかかとを揃えて履き終えると、いつもの穏やかな、所でも評判のいい微笑みを私に向けた。
「今の自由なおだよ、由美」
彼はそう言って、優しく私の肩をポンと叩く。 決してい力ではない。むしろ、のかかるさな子どもを労わる父親のような、温かみすら帯びたつきだった。
「珈琲を杯んでもいいし、何か細々としたものがるなら、そこから使いなさい。りないものがあれば、夜にレシートを見せてくれれば精算するからね」
「……ありがとう、あなた。ってらっしゃい」
私は両をエプロンのでね、くをげた。 ドアが静かに閉まり、オートロックの子音がピッと鳴る。音がざかっていくのを確認してから、私は玄関の皿に残された百円玉に線を落とした。
これが、歳の私に与えられた「の自由」の全額だった。
がは決して貧しくない。彦は都内の堅商社で課を務めており、収は同代の平均よりもずっとい。
広告
世田のれにある築浅の分譲マンションに暮らし、娘の音は私の学に通っている。
彦は酒に溺れることもなければ、鳴り散らすこともない。をされたことなど度もなかった。所のゴミしを伝い、学の保護者会にもスーツ姿でく顔をし、誰からも「絵に描いたような良き夫、良き父親」として慕われている。
ただ、がの活費は、すべて彼の元で元管理されていた。
スーパーの費、用品、費から娘の学費に至るまで、すべての決済は夫の族カードか現でわれ、私は円単位のレシートを毎晩、卓で彼に提しなければならない。しでも計算がわなかったり、レシートを紛失したりすれば、彼は決してりはしないものの、ひどく困ったような、いれみを湛えた目で私を見つめるのだ。
『由美、責めているわけじゃないんだ。でもね、君はおの計算が昔から苦だろう? だから僕がちゃんと見てあげないと、将来困るのは由美なんだよ』
そう言われるたびに、私は自分の無能さを恥じ、彼に謝しなければならないとい込んできた。 結婚して、専業主婦として世から隔絶されていた私は、それがしばかり「おに几帳面な夫」の庭なのだと、自分に言い聞かせ続けていた。
広告
あの封筒が届く、そのの朝までは。
*
そのは曜だった。 朝のゴミしを終えて郵便受けをけると、区役所からの封筒が通届いていた。宛名は彦ではなく、娘の音の名と、保護者としての私の名が併記されている。「等学等就学支援続関係類」とかれていた。
音のや学費に関するな類だ。私はそれをリビングのテーブルに置き、朝の片付けをしていた。 勤の準備を終えてリビングに入ってきた彦は、テーブルのの封筒に目を留めると、何の躊躇もなくそれをに取った。
「あなた、それ、区役所から音の……」
私が言いかけた瞬だった。 彦はを封することすらせず、両の指先で封筒の両端を挟み、ピリピリと音をてて真つに引き裂いた。
部のに、乾いたの裂ける音だけが響いた。 彼のは淀みなくき、つになった封筒をさらにね、つに引き裂く。そしてキッチンのゴミ用角コーナーのゴミ箱へと、無造作に放り込んだ。
私は息を呑み、洗っていた皿を取り落としそうになった。
「な、何をするの……? それ、学の支援の続きの……」
彦は洗面台でを拭きながら、鏡越しに私を見て、ふっと穏やかに笑った。
「いいんだよ、由美。こういうお役所の続きはね、所得制限や控除の計算がものすごく複雑なんだ。
君が読んでもどうせ理解できなくて、を抱えるだけだから」
「でも、提期限とかがいてあったら……」
「丈夫。