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"追放された偽物令嬢、奇跡の霊泉で村ごと成り上がります" 第1話

あぜにち止まると、湿り気を帯びたの匂いと、どこかのから流れてくる薪の煙が腔をかすめた。

「おい、どこの娘さんだ? まるでテレビにる女優さんみたいだな」 「こんな何もない田舎に、都会の令嬢が何の用だべ」

荷造り紐で縛られた粗末な箱を運ぶたちが、巻きに私を見つめてひそひそと囁きっている。に纏った仕てのいい淡いグレーのブラウスも、磨かれた革靴も、赤のあぜには酷く浮いていた。

——世の記憶が、たいのように胸を満たす。

かつての私は、幸という華やかな檻にしがみつくことだけに全てを捧げていた。 まれてすぐに病院で取り違えられ、余を豪邸の令嬢として育てられた私。だが、真実が見した瞬、血の繋がった本当の娘である奈々が戻ってきた。

『取り違えられただけの野良犬が、私の居所を奪ったくせに!』 『あなたに借りた数の、命を差ししたって返せないわよ!』

狂気じみた憎悪を向けられ、血筋を持たぬ私は居所を失う恐怖から奈々と沼の争いを繰り広げた。そして最は——ブレーキの利かなくなったごと、たい崖へと転落したのだ。

命を落として初めて気づいた。血縁の無に怯え、親の顔を窺い、誰かを蹴落としてまで守る価値のあるものなど、あのえ切った豪邸には何つなかったのだと。

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「今世では、もう争わないわ」

呟き、の指にはめられた古びた翡翠の指輪にそっと触れた。 世の事故の瞬、私の血を吸って仄かなを放ったこの指輪。目覚めた、私の識の奥底には、議な『箱庭のような空』と、底からこんこんと湧きる清らかな『霊泉』が息づいていた。 この力があれば、誰にも縋る必はない。このの匂いがする所で、私は私のでつ。

「……幸根、なのかい?」

震える声に顔をげると、のついた作業着姿の男女が、あぜの向こうから駆け寄ってくるところだった。 焼けした顔に刻まれたい皺。ひび割れた。私のみの親、杉と、母の佳代だった。

「お母さん、お父さん。ただいま戻りました」

私の言葉に、佳代の目から粒の涙が溢れた。彼女はに汚れた自分の掛けで何度もを拭き、恐る恐る私の肩に触れた。

「本当に、帰ってきてくれたんだね……あんな派なお敷をて、こんな何もないあばらに来るなんて……窮屈で、嫌になっちまうんじゃないかい?」 「ううん。ここが私の本当のよ。何も嫌なことなんてないわ」

背から、のさながおずおずと顔を覗かせた。 歳になる妹の蛍と、歳の弟、文修だ。文修は幼い頃のいの遺症で、同代の子どものように言葉をうまく話せず、能の発達も遅れていると聞いていた。

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怯えたように母の背に隠れるに、私は屈んで目線をわせた。

「蛍、文修。今から私が、あなたたちのお姉ちゃんだよ。これ、気に入ってくれると嬉しいな」

途の町で買ってきた、鮮やかな文具セットと柔らかい菓子の包みを差しす。 蛍は目を輝かせて受け取り、文修は私の指先をおずおずと握りしめて、がほころぶように笑った。

通されたは、のに晒された古い造平だった。 には薪が積まれ、柱には所々傷がある。だが、案内された部の畳は丁寧に拭き清められ、干しされた布団からはよいお様の匂いがした。

「何もなくてすまないね。でも、ご飯だけはしっかりべさせるから」

夕方、くの親戚が物珍しさに何か顔をしたが、佳代は私を庇うように丁に追い返してくれた。 膳に並んだのは、庭で飼っていた鶏を絞いて煮込んだ汁物と、朝採れの野菜の煮浸し、そして玄米のご飯。決して豪華ではないが、含むと、じんわりとした滋が体に染み渡る。

「……美しい。料理が作ったどんなご馳より、ずっと美しいです」 「慮しないで、もっとお肉をおべ。都会じゃそんなに痩せちまって……」

父がきな骨付き肉を私の椀によそい、蛍がはにかみながら根の煮物を差しす。 幸では、事は常にマナーと序列を試される戦だった。

晦の晩餐会ですら、張り詰めた沈黙のでの器が触れうたい音しか響かなかった。

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