みかん小説
本棚

"「生きている」と気付いた納棺師、黒幕の婚約者を地獄へ送る葬儀" 第1話

痛ましい事故だった。

かわいそうに、く葬して楽にさせてやってくれ。

夜の霊で、婚約者の郷田さんはしらじらしい涙を拭った。

そして、私の作業をせかすように言葉を投げかけた。

診断という絶対な切れので、ただの納棺師である私は黙って頷くしかなかった。

しかし、彼女の首筋に触れた私の指先は、自然なぬくもりとさな注射痕を捉えていた。

夜の霊は、苦しい静寂に包まれていた。

先ほどまでこの部にいた郷田さんは、に廊の奥へと消えていった。

彼は、婚約者をくした劇の男性を見事に演じていた。

しかし、その背には、邪魔者を始末し終えたという堵のようなものが透けて見えていた。

私は静かに扉を閉めた。

な扉が閉まる鈍い音が、部のに響いた。

私は、部の央に置されたたいステンレスの台のへと線を戻した。

そこには、純のシーツに包まれたの若い女性が横たわっていた。

名は、由奈さん。

齢は、24歳。

全国に名をられる巨企業、トートホールディングスの社令嬢である。

彼女の父親である社は、数に病していた。

彼女が莫な遺産と社の位を引き継いだばかりだと、ニュースで聞いたことがあった。

診断によれば、因は交通事故による脳挫傷と止とされていた。

広告

を運転に壁に激突したと記載されている。

救急搬送されたものの、息を引き取ったということだった。

私は静かに礼をした。

それから、処置の準備に取りかかった。

遺体を清め、ご遺族が最のお別れを穏やかな気持ちで迎えられるようにえる。

それが、納棺師である私の仕事である。

私は、お湯で絞った清潔な布をに取った。

そして、由奈さんの美しい顔ちへとそっとづいた。

しかし、私の指先が彼女の首筋に触れた瞬だった。

私のきが、ぴたりと止まった。

私は、自分の覚を疑った。

もう度、彼女の肌にのひらを当てた。

温かい。

確かに、かすかなぬくもりが残っている。

刻から数が経過しているというのに、直も全く始まっていない。

私はすぐさま、彼女のまぶたをそっと押しげた。

そして、瞳孔の反応を確認した。

部のわずかなに対して、網膜がごくわずかに収縮しようとするきを見せている。

脈拍も呼吸も、完全に止しているように見えた。

しかし、細胞はまだ活を続けているのだ。

そして、私は彼女のの裏側に当たる、首筋の目たない所を見た。

そこに、さな赤い斑点を見つけた。

それは、極細の注射針が刺さった跡だった。

般な医療用の点滴の針とは、らかに太さも形状も違う。

特殊な器具を使ったとしかえない、自然な傷だった。

広告

私の脳裏に、かつて裏社会できていた頃の記憶が鮮に蘇った。

私はかつて、政財界のを裏で治療する、伝説の神医と呼ばれた族の末裔だった。

血臭い権力闘争に嫌気が差し、すべての位を捨てて納棺師のを選んだ。

しかし、私の識と技術は決して失われてはいなかった。

この症状には、見覚えがあった。

アジアの裏社会で使われる、肺能を極限までさせ、仮状態を作りす特殊な筋弛緩毒だ。

その毒は、被害者の識だけを完全に覚させたままにする。

指本かすことも、声をすこともできない獄のような状態に陥れるのだ。

由奈さんは、んでいなかった。

彼女は今、自分が体として扱われていることを認識しているはずだ。

この暗くたい部で切り刻まれる恐怖と戦っているのだ。

あるいは、そのまま葬炉に入れられる恐怖と戦っているのだ。

私は、先ほどまでここで泣き真似をしていた郷田さんの姿をいした。

そして、静かなりを覚えた。

買収された医師に、虚偽の診断をかせたのだ。

婚約者である自分が喪主となれば、誰も遺体の状態に疑問を持つことはない。

ただの葬儀である私は、類の通りに彼女を棺に納めるだけだ。

そして、葬のボタンが押されるのを待つだけだと、彼はっているのだろう。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: