"他人の家で父親ごっこをする夫" 第16話
【16】 「今回は、だけで撮りました」
それからヶが過ぎた。
母の精密検査の結果は、医師の診断通り完全に良性だった。
薬をむ必もなく、半に度の定期検診だけで済むことになり、私の肩の荷はようやくりた。
私たち夫婦の関係が、あの事件を境に劇な恋へ戻ったわけではない。
かけてえ切ったスープが、度の話しいで温まり直すはずもなかった。
のは、相変わらず静かだった。
けれど、その静けさの質は、以とはらかに違っていた。
雅は、残業を理由に帰宅を遅らせることがなくなった。
休にあてもなくすることもなくなった。
球が切れれば、彼は自分から脚をし、「これ、替えておくよ」と私に声をかけるようになった。
私はそれに対して、「ありがとう、助かるわ」と、努めて言葉にして返すようになった。
さな、探りの歩み寄り。
お互いに「でできること」の壁をしずつ削り落とす作業は、もどかしく、に気まずさを伴うものだった。
の初旬。
ベランダの植鉢にさな緑の芽が吹き始めた曜の午、郵便受けを見にった雅が、通の分い封を持ってリビングに戻ってきた。
差の欄には、見慣れない野の所と、し角ばった跡で『佐伯亮介』とかれていた。
「……野からだ」
広告
雅が封筒を見つめたまま、卓のにち尽くした。
以の彼なら、私の目を盗んで自分の斎へ持ちり、引きしの奥に隠していただろう。
だが、雅は迷うことなく私のへ歩み寄り、封筒をダイニングテーブルの真んに置いた。
「由美、緒に見てくれ」
私は頷き、ペーパーナイフで封を切った。
からてきたのは、枚のと、沢のあるカラー写真だった。
野の古い平の庭先。
まだ蕾のいきな柿のので、のが並んでいた。
千鶴さんは当たりのいい縁側に腰掛け、穏やかな顔で微笑んでいる。
その隣には、無精髭を綺麗に剃り落とし、作業着姿で背筋を伸ばした亮介がっていた。しに焼けたその顔には、の主としての落ち着きが宿っていた。
そして列で、遥があの黄いウサギを両で掲げるようにして、カメラに向かって満面の笑みを浮かべていた。
写真の央に、雅はいない。
歪な「」ではなく、欠落を抱えながらも自分たちのでちがった、確かな「」の族写真だった。
裏を返すと、亮介の几帳面な字でく綴られていた。
『運送の仕事も本採用になりました。お袋も腰のリハビリを始めています。
々とご迷惑をおかけしました。
今回は、だけで撮りました。』
雅はその写真を、い、瞬きもせずに見つめていた。
その瞳の奥に来しているものが、喪失なのか、それとも堵なのかは分からなかった。
けれど、彼の元には、かすかな、本当に微かな笑みが浮かんでいた。
「……ちゃんと、やってるみたいだな」
「ええ。いい写真ね」
私がそう言うと、雅は写真をテーブルの端の写真ての横に、伏せることなく、表を向けたまま静かに置いた。
秘密は、もうこののどこにもしなかった。