"他人の家で父親ごっこをする夫" 第14話
【14】 「野へのは、でくべきだ」
曜の朝、午。
荒川区のには、底えのする細いが煙るようにっていた。
佐伯のアパートのに、い型トラックが台まっている。
荷台には幌がかけられ、すでに井くまで段ボールと具がぎっしりと積み込まれていた。
傘も差さず、荷台のロープを締め直していた亮介が、音に気づいて顔をげた。
に濡れたアスファルトを歩いてづいてくるを見て、彼のが止まる。
「……佐々さん」
作業着ではなく、撥加のコートを着た雅が、静かにそこにっていた。
アパートの玄関から、防寒着を着込んだ千鶴さんが転げるようにてくる。
そのろには、あの黄いウサギを抱きしめた遥がいた。
「まあ、雅さん! 来てくださったのね! よかった……亮介ったら朝からオロオロするばかりで、どうなることかとったわ」
千鶴さんは救い主を見つけたように顔をほころばせ、雅の濡れた袖にを伸ばした。
だが、雅はわずかにを引き、そのを自然な仕で避けた。
雅は何も言わず、コートの内ポケットから分い封筒を取りした。
そして、それを千鶴さんではなく、ち尽くす亮介の目のに差しした。
「……これ、レンタカーの類と、速の領収、それから野の産の連絡先だ」
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亮介が眉をひそめ、訝しげに封筒を見つめる。
「何の冗談だよ。あんたが運転するんだろ? 俺は型免許なんて持ってねえぞ」
「昨、営業所にって種を変更してきた」
雅の声は、く、驚くほど落ち着いていた。
「亮介の持ってる普通免許のAT限定でも運転できる、1・5トンの平ボディだ。荷台の積み込みも、過積載にならないよう計算してある。……ナビにも、妹さんのの所を登録しておいた」
亮介の喉が、引きつるようにいた。
千鶴さんが血相を変えてのに割り込んでくる。
「ま、雅さん? 何を仰ってるの? あなたが野まで乗せていってくださる約束でしょう? 私たち、どうやってけばいいのよ!」
「千鶴さん」
雅は初めて、その老婦の瞳を正面から、厳しく見据えた。
「野へのは、でくべきです」
「……え?」
「亮介はもう、派な父親ですよ。仕事だって、野の運送会社に面接を取り付けたんでしょう? 昨の夜、彼から聞きました」
千鶴さんが息を呑み、息子の顔を見げた。
亮介は気まずそうに顔を背け、粒に濡れた頬を乱暴に拭った。
「俺は……」
雅は度だけ線を落とし、それから絞りすように言葉を継いだ。
「俺は、自分の庭から逃げていただけなんです。妻が派で、何でもでできることに劣等を抱いて……こので『必とされる男』の役を演じることで、自分のちっぽけなプライドを満たしていただけだった」
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「雅さん、そんなこと……!」
「そんなこと、なんです」
雅の声は震えていなかった。
「俺がここに居座り続けたせいで、亮介が父親になる会を奪い、千鶴さんが息子と向きうを奪っていた。善の顔をして、の族に寄していたのは……俺のほうでした」
のるに、静寂が落ちた。
くでるの通過音だけが、鈍く響いている。
雅は亮介のに歩み寄り、トラックの鍵をその無骨な掌に握らせた。
「亮介。これからは、おがお母さんと遥を支えるんだ。……できるな?」
亮介は鍵をく握りしめ、唇を噛んだ。
その目に、りではなく、い覚悟のが宿るのを雅は見届けていた。
雅は膝をつき、怯えたようにウサギを抱く遥の目線にわせた。
「遥ちゃん」
「……おじちゃん、いっしょに来ないの?」
「うん。おじちゃんは、自分のに帰らなきゃいけないんだ」
雅は女のにそっとを置いた。
「お父さんと、おばあちゃんを頼むな。……そのウサギ、ずっと切にしてくれて、ありがとうな」
ちがり、千鶴さんに向かってく、直角にをげる。
「お世話になりました。どうか、お元気で」
引き止める千鶴さんの声を背に受けながら、雅は度も振り返らずに歩きした。
全から、まとっていた「頼れる男」の鎧が剥がれ落ちていくような、耐えがたい空虚。
だが、駅へ向かってりす彼の取りには、ぶりの確かなみがあった。