"他人の家で父親ごっこをする夫" 第12話
【12】 曜の朝、母の検針検査
雅はリビングのかりを点けようとして、私のややかな線に気づき、スイッチに伸ばしたを引っ込めた。
接照の暗いの、彼はダイニングテーブルからしれた所にち尽くした。
「……悪かった」
喉の奥から絞りしたような声だった。
「千鶴さんたち、荷造りが全然終わってなくて……野への配も々と残ってて、すぐには戻れなかったんだ。でも、ちゃんと話そうとって帰ってきた」
「何を話すの?」
私の声には、りも、責めてるもなかった。
ただ乾いた事実だけを求める響きに、雅は怯えたように線を泳がせた。
「あのとの関係のことだよ。亮介のやつがあんな失礼な態度を取って、おをにさせたのは本当に申し訳ないとってる。でも、俺はやましいことなんて何つしてないんだ。千鶴さんは昔の恩だし、母子庭で困ってるのを見過ごせなかっただけで――」
「の曜」
私は夫の弁解を、静かに遮った。
「千鶴さんたち、野へ発するのよね?」
雅は言葉を詰まらせ、それから気まずそうに頷いた。
「……ああ。レンタカーの2トントラックを配してあってな。俺が運転して、荷物を野の妹さんのまで運んでやる約束をしてるんだ。亮介は昔の免のせいできなを運転できないし、千鶴さんはが悪いから……俺がついてってやらないと、どうにもならないんだよ」
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まだ言っている。
自分がついてかなければ、あの族はちかないのだと。
自分が世界で唯の救世主なのだと、この期に及んでも信じ込もうとしている。
私はちがることなく、バッグのから枚の類を取りした。
A4サイズの、質な用。
つ折りにされていたそれを丁寧に広げ、ダイニングテーブルの央、雅の目のに滑らせた。
京都総病院の、診療予約票だった。
央には太いゴシック体で、担当医の署名と、の付、そして検査項目が印字されていた。
『乳腺科・穿刺吸引細胞診(検針検査)』
雅の線が、その文字に吸い寄せられた。
「……これ、お義母さんの……?」
「ええ」
私は淡々と告げた。
「先の検診でが見つかって、再検査になったの。悪性の能性がいと言われていて、の曜、組織を採る検を受けることになった」
雅の顔から、サッと血の気が引いていくのが分かった。
「そんな……聞いてないぞ。なんで言ってくれなかったんだ?」
「言おうとしたわよ」
私は夫の目を真っ直ぐに見据えた。
「先週の曜、あなたが『関張にく』ってボストンバッグに荷物を詰めていた朝。『話があるんだけど』って、私、声をかけたわよね」
雅の呼吸が止まった。
「あのとき、あなた何て言った? 『張で忙しいから、急ぎじゃないならにしてくれ』って、私の顔も見ずに靴を履いたのよ」
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「それは……張だとってたから……仕事のことでがいっぱいで……」
「仕事じゃなかったじゃない」
私のい声が、雅の言い訳を容赦なく切り裂いた。
「あなたは仕事を休んで、休を使って、あのでタンスを解体し、ウサギを抱いた女の子と族写真を撮っていた。私の母親が癌かもしれないという話を打ちける隙すらないほど、あの族のお世話で忙しかったのよね」
雅は元を両で覆い、よろめくように壁に背を預けた。
弁解の言葉は、もう音もてこなかった。
「の曜、朝の」
私は予約票を指先でトントンと叩いた。
「病院の科来受付。局部麻酔をして、太い針を刺す検査よ。医師からは『できる限りご族の同伴をお願いします』と言われているわ」
過の私なら、こう付け加えていただろう。
『仕事があるなら無理しなくていいから』
『で丈夫だから、気にしないで』と。
そうやって彼に逃げを与え、傷つかないためのバリアを自ら張っていただろう。
だが、今夜の私は違った。
「よ。それだけ」
私は子を引いてちがると、寝へと向かった。
振り返ることはしなかった。
ダイニングテーブルのに取り残された枚の予約票と、そのにち尽くす夫の気配だけが、え切った空気に張り付いていた。