"他人の家で父親ごっこをする夫" 第11話
【11】 静かすぎるリビングと、20分のたい壁
自宅マンションのドアをけたのは、夜のを回った頃だった。
静まり返った玄関。
センサーライトがややかに灯り、私の元を照らす。
埃つ落ちていない廊を通り、リビングの扉をける。
広い、畳のリビング。
佐伯のあのアパートとは比べものにならないほど質なソファがあり、入れのき届いた無垢材のフローリングが広がっている。
けれど、ここには「活」の匂いがなかった。
まるで、モデルルームのように無質で、んだように静かだった。
私はコートを脱ぎ、ダイニングチェアに腰掛けた。
ベランダを見る。
あのモスグリーンの折りたたみ子が置かれていたはずのスペースは、ぽっかりと自然な空のまま、夜のに沈んでいる。
納戸の扉をける。
理頓された棚の片隅、まであの黄いウサギが座っていた所には、今や除湿剤だけが虚しく置かれていた。
亮介の言葉が、の奥で何度もリフレインしていた。
『のに、俺の座る所なんて最初からないんだよ』
……本当に、そうだったのだろうか。
結婚した当初、私は雅に何度も助けを求めていた。
慣れない事に戸惑い、「今、ご飯作れそうにないから何か買ってきて」と頼んだもあった。
雅は「仕事で疲れてるのに」
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と骨に嫌な顔をして、コンビニの弁当を机に放り投げた。
邪で寝込んだとき、「氷枕を変えてほしい」と頼んだ。
雅は「どこにあるか分からない」と苛ち、結局自分で起きがって凍庫へ向かった。
度、拒絶される。
度、嫌になられる。
度、ため息をつかれる。
そうやってさな失望をねるうちに、私は学習してしまったのだ。
「このに頼るくらいなら、自分でやった方が傷つかずに済む」と。
「嫌な顔を見せられるくらいなら、で笑顔で片付けた方がずっと楽だ」と。
私が築きげた完璧な活は、雅を追いすための壁ではなかった。
彼のため息から、私自のを守るための防壁だったのだ。
けれど、雅はその防壁を見て、「妻は俺を必としていない」と解釈した。
そして、自分を無条件に崇めてくれる、ボロボロで無防備な別の庭へと逃げ込んでいった。
私も、雅も。
お互いに傷つくことを恐れ、本音でぶつかりうことを放棄し、かけてこの「静かすぎる墓」をで作りげてきたのだ。
計の針が、夜のを回った。
カチャリ、と玄関のシリンダーが回る微かな音がした。
続いて、恐る恐る靴を脱ぐ気配。
廊を忍びで歩く音がづき、リビングのドアが数センチだけいた。
暗のに座る私と目がった瞬、雅の体が張った。
「……由美。起きてたのか」
作業着から、くたびれたシャツに着替えていた。
その肩は丸まり、顔は気で、かつての威厳など見るもなかった。