"他人の家で父親ごっこをする夫" 第9話
【09】 テーブルのに叩きつけられた、もう枚の写真
「亮介! やめなさい!」
鳴のような叫び声と共に、玄関から千鶴さんが駆け込んできた。
そのろで、遥が半泣きになってち往している。
千鶴さんは亮介の腕に縋り付き、必に彼を引きそうとした。
「何を馬鹿なこと言ってるの! 雅さんがどれだけ私たちを支えてくれたか、あんた忘れたの?! 婚したときだって、む所を探してくれたのは雅さんじゃないの!」
「うるせえ! だからそれが余計なお世話だって言ってんだよ!」
「お母さんを困らせないで! 雅さん、すみません、この子がまたこんな……!」
千鶴さんは息子を責めてながら、自然な作で雅の背に隠れた。
守ってもらうのが当たりであるかのように、雅の作業着の裾を握りしめている。
遥もまた、父親である亮介ではなく、震えながら雅の腰のあたりにしがみついていた。
「雅おじちゃん、こわい……」
「丈夫だ、遥。丈夫だからな」
雅は条件反射のように、を庇う体勢を取った。
その顔には、先ほど亮介に痛いところを突かれたはずの屈辱を覆い隠すように、奇妙な使命と陶酔が滲んでいた。
――ああ、そうか。
その異様な景を、私は歩引いた所から徹に見つめていた。
これが、この部で何も繰り返されてきた茶番劇の正体だった。
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甘えを捨てきれない母親と、自できない息子。
が本来向きうべき親子としての臭い葛藤を、雅という「都のいい部の蓋」がずっと覆い隠してきたのだ。
千鶴さんは息子と戦わずに済み、雅に甘えることで者を演じ続けられる。
亮介は雅に責任を転嫁することで、自分がの父親になれない現実から目を背けられる。
そして雅は――自分の庭では決して得られない「絶対な必性と謝」を貪りうことができる。
誰もが傷つかずに済む、全で、ぬるくて、徹底に腐敗した共依のゆりかご。
そのゆりかごを維持するための燃料として、私のと、私のいと、私たちが暮らすの調度品が、惜しげもなくくべられていたのだ。
りすら、もはや湧いてこなかった。
残ったのは、底の抜けた井戸を覗き込むような、いい虚無だけだった。
「由美、待ってくれ、これは違うんだ――」
千鶴たちのろから、雅が私に向かってを伸ばそうとした。
だが、その体にはのがぶらがっていて、彼は歩もへむことができない。
滑稽だった。自分で築きげた「必とされる男」のみに絡め取られて、本物の妻にづくことすらできないのだ。
私は持ってきた焼き菓子の袋を、ローテーブルの隅の、わずかに空いたスペースに静かに置いた。
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「佐伯さん。お邪魔いたしました。お引越し、滞りなく終わるといいですね」
千鶴さんが怯えたように目を見いた。
「由美さん、あの、お茶もまだ……」
「結構です。これ、皆さんで召しがってください」
私は度だけ雅に線を向けた。
弁解を求めているような、赦しを乞うているような、けない夫の瞳。
「……私のにあるものは、もうつも持ってこないでね」
それだけを言い残し、私は背を向けた。
玄関へ向かい、あのモスグリーンの折りたたみ子の横を通って、パンプスにを入れる。
背で雅が「由美!」と叫ぶ声が聞こえたが、振り返る気は起きなかった。
アルミサッシのドアをけ、淀んだ空気の部からへる。
夕暮れの町のたいが、照った私の頬を容赦なく叩いた。
へ向かって、で歩きす。
だが、アパートの敷をてメートルもまないうちに、背から荒々しい音がアスファルトを蹴って追いかけてきた。
「おい! 佐々さんの奥さん!」
振り返ると、息を切らした亮介が、鬼のような形相でってくるところだった。