"他人の家で父親ごっこをする夫" 第8話
【08】 「いつまで父親のフリをするつもりだ」
現れた男は、写真のろにっていた佐伯亮介だった。
よれたスウェットのを着て、無精髭をやした代半ばの男。
昼から微かに酒と煙の匂いを漂わせたその目は、酷く濁って淀んでいた。
玄関に脱ぎ捨てられた見慣れない私のパンプスと、散らばった具を見て、亮介は骨に眉をひそめた。
そして、リビングの央で対峙する私と雅を値踏みするように見回した。
「……あ? 誰だよ、あんた」
私が名乗るより先に、雅が慌てて割って入った。
いつもの、あの面のいい、頼れるぶった声だった。
「亮介、昼から酒なんかんでるのか? 今はお客さんが来てるんだ、奥の部に入ってろ」
「あ?」
亮介の眉の皺が気にくなった。
彼は雅の制止を無してズカズカとがり込み、ローテーブルのに置かれていたあの族写真を乱雑にひったくった。
「客? ふざけんなよ。それより佐々さん、これ何なんだよ」
写真の端を指で弾きながら、亮介は嘲笑うような声をげた。
「昨、お袋が嬉しそうに見せてきたぞ。『やっとちゃんとした族写真が撮れた』ってな。おいおい、何だよこれ。あんた、いつまで俺たちの父親のフリをするつもりだ?」
雅の顔から、先ほど私に向けた怯えとは別の、プライドを傷つけられた男の焦燥が浮かびがった。
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「亮介、滅なことを言うな! 俺は千鶴さんが記に枚撮りたいって言うから、頼まれて――」
「頼まれたぁ? 嘘つけよ!」
バチン、と写真をテーブルに叩きつける乾いた音がした。
「あんただろ、写真館の割引券持ってきてセッティングしたの! お袋を言いくるめて、遥を懐柔して、俺が仕事探して空けてるにがり込んでさ! あんたがそうやって何でもかんでも先回りして『いい父親役』を演じるから、俺がどれだけ惨めないしてきたか分かってんのかよ!」
「俺はおたちの活を助けようと――」
「助ける?! 笑わせんな!」
亮介が雅の胸ぐらに掴みかからんばかりに詰め寄った。
その剥きしの敵に、私は息を呑んだ。
この青は、雅に謝などしていなかった。
むしろ、にわたって庭に寄し、自分の居所を奪い続けてきたこの「親切な隣」を、骨の髄まで憎悪していたのだ。
「俺とお袋が揉めるたびに、あんたがに入って仲裁したよな? 『亮介、おがになれ』『お母さんを困らせるな』って、正論吐いて説教して! そのせいで、俺とお袋は度も本音でぶつかりえなくなったんだよ! あんたが都のいいクッションになって逃げ作ったせいで、俺たちの関係はずっと腐ったままだ!」
「それはおが逃げてばかりいたからだろ!」
雅もわず声を荒らげた。
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だが、その声はずり、らかに揺していた。
「俺がいなきゃ、あのときの賃の滞納だってどうにもならなかったはずだ! 遥の入学準備だって、誰がを面したとってるんだ!」
「頼んでねえよ!」
亮介の声が狭いアパートを揺らした。
「頼んだのはお袋だ! あんたはお袋の依に付け込んで、自分を満たしてただけだろ! 『頼りにされる派な男』になりたくて、うちのボロい庭を実験台にしてただけじゃねえか!」
雅の息が詰まった。
を射抜かれたの、決定な沈黙だった。
亮介はややかにを鳴らすと、線をゆっくりと私の方へ向けた。
「……へえ。あんたが、噂の『何でもでできる完璧な奥さん』か」
嘲笑を含んだその線に、私は背筋を伸ばして応えた。
「佐々由美です。雅の妻です」
「奥さん、あんたもいい加減、この男のメッキを剥がした方がいいぜ」
亮介は吐き捨てるように言った。
「こいつは善の塊なんかじゃない。あんたに相にされない寂しさを埋めるために、の庭を乗っ取って『ごっこ』に酔いしれてるだけの、ただの臆病者だ」