"他人の家で父親ごっこをする夫" 第3話
【03】 「ああ、由美さんですね。雅さんから聞いてます」
喉の奥がカラカラに乾いていた。
私は息をえ、できる限りく、を押し殺した声をした。
「……突然のお話、申し訳ありません。私、佐々雅の妻の、由美と申します」
構えていた。
話で絶句されるか、激しく揺されるか、あるいは方に切られるのではないか。
どんな罵倒や拒絶がんできても耐えられるよう、全の筋肉を直させていた。
だが、返ってきたのは、予だにしない柔らかな嘆の声だった。
「あら! まあ……由美さん! いつもお世話になっております!」
「……え?」
受話器を握るにわず力が入る。
女性――佐伯千鶴さんの声には、敵も、やましさも、揺の欠片すら微もなかった。
まるで、夫の職の司の妻から候の挨拶を受けたかのような、屈託のないるさだった。
「お話をいただけるなんてってもみませんでした。雅さんから、いつもお話は伺っておりますのよ」
「……私の話を、ですか?」
「ええ、もちろん! 由美さんは本当にお仕事がおできになって、会社でも頼りにされていて毎お忙しいって。いつもご主をお借りしてばかりで、本当に申し訳ないわねって、息子とも話していたところなんです」
のが真っになった。
お借りしてばかり?
仕事ができて忙しい?
「あの……佐伯さん、雅は、そちらにいるのですか?」
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「ええ、いますよ。今朝もくから来てくださってね。ほら、うちの息子が腰を痛めてしまって頼りにならないものですから、雅さんがタンスの解体をに引き受けてくださって……さっき作業が段落して、奥の部でし横になってらっしゃいますけど、起こしましょうか?」
まるで親戚の叔父の話でもするかのように、千鶴さんは滑らかに語り続ける。
「あ……いえ、起こさなくて結構です。それより、タンスの解体というのは……」
「ああ、ごめんなさいね、由美さんにはまだ雅さんから詳しくお話ししていなかったかしら? 私、にはこの部を引き払って、野の妹のところへを寄せることになりましてね」
引っ越し。
后。
のでパズルのピースが音をてて繋がっていく。
あの写真の裏にかれていた文字。
『やっと、ちゃんと枚撮れたね。』
あれは、隠し撮りでも活の誇示でもなく、この老婦が引っ越すの、ただの「お別れの記写真」だったのか。
「雅さんにはね、もう何もから、の修繕だの亮介の就職の相談だの、何から何まで助けていただいて……本当に、雅さんがいらっしゃらなかったら、うちの族はどうなっていたことか。由美さんにはお忙しいところ、ご主を独占してしまって顔向けができませんわ」
千鶴さんは悪気のない笑い声を漏らした。
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その無邪気な謝の言葉が、鋭利な刃物となって私の胸のくに突き刺さる。
彼女たちは、私をっていた。
私の名をり、私がバリバリ働いていることをり、そので雅を「親切な隣」として頼っていた。
私だけが、らなかったのだ。
結婚してからのい、夫がどこで、誰のためにその先を使い、誰の相談に乗り、誰の父親の代わりを務めていたのか。
私だけが、この世界の枠に完全に放りされていた。
「由美さん? もしもし、聞こえてらっしゃいます?」
私の沈黙を審にったのか、千鶴さんが受話器の向こうで声をかけてくる。
「……あ、はい。聞こえています」
「もし今、お仕事の都がつきますなら、夕方頃にお茶でもいらっしゃいませんか? ちょうど荷造りも目処がつきますし、私、ずっと由美さんにきちんとお礼をお伝えしたかったんですのよ。雅さんも、きっとびますわ」
私は自分の太ももを、爪がい込むほどく掴んだ。
「……分かりました。伺います」
所を聞き終え、通話を切る。
え切ったのに、静寂が戻ってきた。
夫が「関張」と嘘をついてまで捧げていた。
その現が、すぐそこにあった。