"他人の家で父親ごっこをする夫" 第1話
【01】 「夫は今週、張の予定はありません」
「佐々部は今週、全休の申請をされておりますが……関への張予定は入っておりませんよ?」
受話器の向こうから返ってきた事担当者の当惑した声に、私の指先がたく凍りついた。
「……休、ですか」
「はい。先のうちに申請されていまして、私用のため週お休みをいただくと。ご自宅には、張とおっしゃっていたのですか?」
「いえ、こちらの勘違いでした。お忙しいところ申し訳ありません」
それ以、会社のデスクで恥を晒す気にはなれず、私はく通話を切った。
オフィスビルの非常階段の踊りで、スマートフォンの無質な画面を見つめる。
夫の雅(まさひと)が「週の関張にってくる」と言ってをてから、今でちょうど目。
この、彼の携帯話の源はずっと切られたままだった。
事故にでも遭ったのではないか。
張先のホテルで倒れているのではないか。
そうって会社に確認した結果が、これだった。
休を使って、週の失踪。
浮気だろうか。
それとも、何か言えないトラブルに巻き込まれたのか。
になっても連絡がつかなければ、警察へって方者届をすしかない。
そう腹をくくり、い取りで夜の自宅マンションへ帰り着いた。
え切ったエントランスで郵便受けをけた。
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チラシの束の隙に、見慣れないものが挟まっていた。
切も貼られていない、の茶封筒。
宛名も差もかれていない。
誰かが直接、このポストの投函に滑り込ませたのだ。
部に入り、コートも脱がないまま封筒のを指で引き裂いた。
から滑りてきたのは、ではなかった。
つ切サイズの、まだ現像されてもない沢のあるカラー写真が枚。
防犯カメラの粗い映像でも、探偵が撮るような盗撮写真でもない。
写真館か、あるいは脚をててセルフタイマーで撮されたような、極めて正式なものだった。
――族写真。
そうとしか形容できない枚だった。
写真の央のソファに、夫の雅が座っていた。
私が度も見たことのない、柔らかな杢グレーの部着を着ている。
結婚してく、では見せたことのない、どこか無防備で穏やかな笑みを浮かべていた。
雅の隣には、柄で品な代半ばの女性。
ろには、し照れくさそうにつ代半ばの男性。
そして雅の膝のすぐに、歳くらいの女の子がちょこんとっていた。
の距は、あまりにも自然だった。
昨今集まったではない。
何も同じ根ので空気を共してきた者たちだけが持つ、独特の親密さがそこにあった。
裏を返すと、油性ペンで几帳面な文字がだけかれていた。
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『やっと、ちゃんと枚撮れたね。』
背筋をたいが流れ落ちていくような覚がした。
別の庭?
私がらないに、雅は活を送っていたのか?
あの女の子は、隠し子なのか?
ので最悪の像が渦を巻いた。
だが、見つめ直すうちに違が胸をつく。
隣の老婦はという齢ではない。
若い男性も、雅と血がつながっているようには見えない。骨格も目元も似ていない。
何より、私の呼吸を完全に止めたのは、その列につ女の子が胸に抱きしめていたものだった。
の先が汚れた、黄いウサギのぬいぐるみ。
……見覚えがある。
どころではない。
の、私が納戸を理していたときに忽然と消え、いくら探しても見つからなかった私自のものだ。
子どもの頃、母が買ってくれたいの品だった。
探すのを諦めきれずにいた私に、雅はソファから顔もげずにこう言ったのだ。
「そんな古いもの、どうせおが自分で捨てたんだろ。げさに騒ぐなよ」
あのとき消えたウサギが、いま、見らぬ女の腕のにあった。
捨ててなどいなかった。
雅が、あのとき私たちのから持ちし、この女に与えていたのだ。
震える指で写真を握りしめた。
私のらない族ので微笑む夫と、奪われていた私の記憶。
静まり返ったリビングで、エアコンの送音だけが気に響いていた。