"父親欄の黒い斜線" 第5話
【05】「奥さん育休だろ?男がく帰って何するの」
料亭での修羅から、が過ぎた。
リビングには、組みてられたダンボール箱がうずく積まれている。
私は無言でガムテープを引き裂き、自分のを詰め込んでいた。
バリバリ、という乾いた粘着テープの音だけが、静まり返った部に響く。
寝からてきた拓也は、その景を見るたびに顔を歪めていた。
あの夜以来、義母からのヒステリックな着信は鳴り止まないが、私は着信拒否に設定している。
逃げを失った拓也は、焦燥に押しつぶされそうになっていた。
「……美咲、今、に帰ってくるから」
ネクタイを締め直しながら、拓也が私の背に向かって言った。
「言実するよ。定でがって、俺が陽菜の面倒を見る。だから、その箱に詰めるの、やめてくれないか」
私はテープを留めるを止めず、振り返りもしなかった。
「好きにすればいいじゃない。仕事に穴をけない程度にね」
夕方。
器メーカーの営業部にいる拓也の様子を、私はに伝てに聞くことになる。
拓也は定の分、を決して直属の課のデスクへ向かった。
「課、本はこれで失礼させていただきます」
「あ? 佐藤、なんだその荷物は。来週のコンペ資料、まだ半分も数字が入ってないぞ」
課はパソコンのモニターから目をさず、忌々しそうに眉を寄せた。
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「妻が……庭の事で、どうしても私が今、乳児の育児を担当しなければならず……」
その言葉がた瞬、フロアのキーボードを叩く音が数箇所で止まったという。
課はゆっくりと子を回転させ、拓也をのてっぺんから爪先までたい目で見ろした。
「おいおい、何言ってんだよ。おの奥さん、今、育休だろ?」
「は、はい。ですが、体調やいろいろな兼ねいが……」
「奥さんがにいて、何で男のおが定退社すんだよ。子ども呂に入れるのに、のががかりでやる必あんのか?」
周囲の先輩社員たちが、苦笑いを浮かべながら線を逸らす。
「おさ、子どもがまれたからって浮かれてんのからないけど、今度の案件、おがリーダーだろ。みんな残業してんだよ。庭を理由に穴けるような奴、次の査定でどう評価されるか、分かってるよな?」
拓也の喉が、引きつるように鳴った。
全の血が引いていくような覚。
これまで自分が、定で帰る女性社員に対してので吐いてきた無関と軽蔑が、そのまま特のブーメランとなって自分の胸に突き刺さった瞬だった。
それでも、拓也はをげてオフィスをびした。
『俺は今、族のためにこれだけの屈辱に耐えた』
『妻のために、キャリアのリスクを冒して帰ってきた』
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そんな歪んだ英雄気取りの揚を胸に抱えて、拓也は午ちょうどに自宅のドアをけた。
「美咲! 帰ったぞ! 本当に定でがってきたんだ!」
だが、玄関にっていた私を見た瞬、拓也の笑顔は凍りついた。
私はすでにコートを着込み、バッグを肩にかけていた。
「おかえり。じゃあ、の朝まで、陽菜をよろしくね」
「……は? え、お、どこくんだよ」
「居のカーテンの採寸と、りないの買いし。今夜は駅のビジネスホテルに泊まるわ。晩、誰にも起こされずに寝たいから」
「待てよ! 晩って……俺で!? 無理だよ、母乳はどうすんだよ!」
拓也の声が裏返った。
私は棚を指差した。
「ミルクの缶と哺乳瓶はそこ。ポットのお湯は度に設定してある。オムツの替えはベッドの。じゃあね」
私がドアノブにをかけた瞬、奥のベビーベッドから、陽菜のがついたような泣き声が響き渡った。