みかん小説
本棚

"父親欄の黒い斜線" 第2話

【02】 父親欄がすべて空の申請類

私の声に、宴席のざわめきがわずかに途切れた。

ビール瓶を傾けていた義父のが止まる。

拓也はハイボールのグラスを元に運んだまま、鬱陶しそうに私を見た。

「何だよ、今? みんなでんでる途だろ。にしてくれよ」

「今じゃなきゃダメなの。この子が『そっち側の』だっていうなら、尚更ね」

私はトートバッグから、分いクリアファイルを冊取りした。

そして、拓也の元、空いた皿の横に音をてて置いた。

「……何これ。アルバム?」

「めくってみて」

拓也はで笑いながら、油で汚れた指先でファイルの表をいた。

最初に現れたのは、区役所に提する保育園の入所申請類の控えだった。

拓也の線が、類のを滑る。

枚、枚。ページをめくる速度が、次第に落ちていった。

「……おい、美咲。これ、何だ?」

拓也の声から、先ほどまでの陽気な響きが消えていた。

「何って、陽菜のこれからの活に必な続きよ」

「そうじゃなくて……なんで全部、保護者の欄がおなんだよ」

個の空気が、急激にえ込んでいくのが分かった。

義母が審そうにを乗りしてくる。

「何の話よ、拓也。見せてごらんなさい」

「待ってくれ、母さん。……美咲、これ、保育園の緊急連絡先、第連絡先もお、第連絡先もおの職……父親の俺の欄、斜線で消してあるぞ」

広告

拓也が震える指で面を指差した。

「児科のかかりつけ医登録カードもそうだ。乳幼児医療費助成の座も、送迎の許証も……全部、おの名しかない。俺の連絡先、どこにもいてないじゃないか」

「ええ。いてないわよ」

私は陽菜の背をトントンと定のリズムで叩きながら、はっきりと答えた。

「き忘れたわけじゃない。最初から、あなたを記入する必がなかったの」

「はあ!? ふざけんなよ! 俺はこの子の父親だぞ!?」

拓也が激昂し、テーブルを拳で叩いた。グラスがガタガタと音をてる。

親戚たちが息を呑む気配がした。

「父親? どのがそんなこと言ってるの?」

義母がたまらず割って入ってきた。

「ちょっと美咲さん! 親戚のでなんて失礼な真似をするの! 拓也はこのの跡取りで、黒柱よ! 父親の名を勝にすなんて、常識れにもほどがあるわ!」

「お義母さん、常識の話をするなら、もっと現実な話をしましょう」

私は拓也の目をまっすぐに見据えた。逃げることを許さないように。

「保育園の緊急連絡先はね、がたときに分以内に迎えにけるをく欄なの。児科の登録カードは、夜に痙攣を起こしたときに、既往症とアレルギーを即座に説できるが持つものよ」

私は息を吸い、言葉を畳み掛けた。

「平の昼、話をかけても『今会議だから』と切る。

子どもの保険証がどこにあるかもらない。そんな名をいたら、いざというときにこの子がぬのよ」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: