"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第13話
【13】 かれた朱肉と、テーブルのの売買契約
約束の曜、午10。
相沢のリビングには、異様な緊張が満ちていた。
オーク材のきなダイニングテーブルのには、純の類が然と並べられていた。
『産売買契約』。
その横には、すでに朱の蓋がされた丸い印肉と、産の野さんが用した契約類の束が置かれている。
「では、相沢様」
野さんがネクタイを正し、改まった声で切りした。
「買主である法様より、付百万円の振込準備が完したとの連絡が入っております。本、登記名義である理恵様にご署名と実印のご捺印をいただければ、契約成となります。残の千百万円は、来末の物件引き渡しに括で決済されます」
千百万円。
築の戸建てとしては、これ以ない破格の満額回答だった。
テーブルを囲む族の線が、私のに集する。
私のバッグの脇には、数に父が作ってくれた象の実印が置かれていた。
修は、ソファーの端でを縮こまらせ、固く握りしめた拳を膝のに置いていた。
かつて庭内で声を響かせていた男の面はない。
ただ、目ののいに私の印が落ちる瞬を、刑宣告を待つ囚のような目で見つめている。
「……お母さん」
沈黙を破ったのは、女のだった。
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声がかすかに震えている。
私は実印にを伸ばしかけ、ふと指を止めた。
そして、ゆっくりと顔をげた。
「野さん、しだけをいただけるかしら。族に、最に聞いておきたいことがあるの」
野さんは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに居まいを正して頷いた。
「ええ、もちろん構いません」
私はテーブルを囲む――、直、奈央、そして修の顔を、順に見つめた。
「実印を押すに、つだけ教えてほしいの」
私の静かな声が、張り詰めた部に染み渡る。
「あなたたちは、どうしてこのを売ってほしくないの?」
が、唇を噛みしめた。
「……私はね、お母さん。このが惜しいわけじゃないの。お父さんへのりで勢いに任せて売って、からお母さんがで悔するんじゃないかって……それが怖かっただけ」
次に、男の直が目を伏せ、絞りすように言った。
「俺は……ずるいよ。自分勝だった。結婚してをても、ここにくればいつでも『子ども』に戻れる所があるって……甘えてたんだ。父さんと母さんの犠牲のに成りってた実だってこと、見ようとしてなかった」
女の奈央は、抱いていた翔太の背に顔を埋め、涙声を漏らした。
「私が……甘えて逃げ込もうとしたせいで、みんなのを壊しちゃったんだって……、その罪悪を背負ってきていくのが耐えられなかったの」
の子どもたちの本音が、テーブルのに零れ落ちた。
そこには、純粋な着もあれば、甘えやエゴもあった。
けれど、どれも嘘偽りのない、このできてきた子どもたちの血の通った言葉だった。
そして、私の線は最に修へと向かった。
修の喉仏が、激しくした。
かつての彼なら、「俺がかけて作っただからだ」と威張り散らしたはずだった。
だが、今の男のからようとしては消える言葉は、どれも形を成さなかった。
「……修さん。あなたは?」
私の問いかけに、修の瞳が激しく揺れた。
乾いた唇がさくき、ぽろぽろと、老いた男の脆い本音がこぼれ落ちた。
「……ここが、なくなったら」
修の声は、掠れていた。
「俺には、帰る所が……この世のどこにも、なくなってしまうからだ」